omb450号

 紙面を読んで From Ombudsman450 

 

画・松本 令子

 

 尾原 陽子

 一昨年の10月に長野県上田市にある無言館を訪ねました。小高い山の上にあり、坂を登りつめた林の中の1本の道を行くとたどり着きます。
 443号の郡山市立美術館の無言館展の特集を読み、絵を観るときは絵がわたしたちに無言であるだけでなく、わたしたちも絵に向かって無言だという意味で「無言館」の名前が浮かんだ、ということを知りました。
 その名の通り、中はうす暗くひっそりして人けもなく、戦没画学生たちの絵がずらっと壁に掛けられていて、1枚1枚静かに、絵を観る者と無言の対話ができるような気がしました。帰り際、売店にCDが目立たず置いてありました。出征前の画学生、日高安則さんが最後に描いた裸婦がジャケットの表紙になっている「あの夏のまま…」と題されたものでした。
 ずっと封をしたまま聴きそびれていたCDの封を開け、聴いてみました。それは、日高さんの絵のモデルになった女性が一大決心をして鹿児島から無言館にやってきて、絵に50年ぶりに会い書き綴った感想を、館長の窪島誠一郎さんが朗読したものでした。
 聴いていくうちに胸が詰まって、涙がでてきました。そのあとには窪島さんの作詞、おおたか静流さんが作曲して歌っている曲が入っていました。澄み切った透明感のあるメロディと歌声、「あの夏のまま…」がそのまま閉じ込められているようでした。
 最後に、無言館の開館日に窪島さんが書いた「あなたを知らない」というメッセージを、自身が語っていました。
 「遠い見知らぬ異国で死んだ 画学生よ 私はあなたを知らない 知っているのは あなたが遺したたった1枚の絵だ…どうか許してほしい 50年を生きた私たちのだれもがこれまで1度として あなたの絵のせつない叫びに耳を傾けなかったことを…」と。
 もう1つ売店に、ひっそりおみやげの缶がありました。缶のフタには辺りの山々を背景に「戦争に絵筆で戦った若者たち」と白字で書かれ、教会風の無言館の建物が堂々とそびえていました。小さな10センチくらいのグレーの丸い缶で、中にはやわらかくて甘いお菓子が入っていました。

(船橋市在住)

 

そのほかの過去の記事はこちらで見られます。