omb452号

 紙面を読んで From Ombudsman452 

 

画・松本 令子

 

 尾原 陽子

 土曜日の朝、ピーター・バラカンの音楽番組を聴いています。番組の中でユージン・スミスの撮った「ジャズ・ロフト」が紹介され、観たくなって出かけました。
 雑誌「ライフ」編集部との衝突や、家族との不和から逃げるようにして住みついたマンハッタンのロフト。そこで音楽を楽しむだけに集まったミュージシャンたちの演奏を録音し、シャッターを切り、むせ返るような熱気を伝えているドキュメンタリー映画です。
 スミスはもともとレコード2万5千枚を所蔵する音楽マニアだった、と知ってびっくりしました。そのあとスミスは妻のアイリーンと熊本県水俣市で暮らしながら、工場排水によって病に脅かされている人々を取材し、写真集『MINAMATA』を作りました。そのスミスの姿をジョニー・デップの強い思いで映画化した「MINAMATA―ミナマタ―」も観ました。
 448号の月刊クロニクル「MINAMATA」を読み、ドキュメンタリーと劇映画は違うということを再確認できたような気がしました。ちょうどNHKのETV特集「写真は小さな声である〜ユージン・スミスの水俣〜」の再放送を観たばかりだったので、何か違うと思ったのでした。
「写真は小さな声だ 私の生活の重要な声である 私は写真を信じている 写真はときには物を言う それが私そしてアイリーンが水俣で写真をとる理由である」と、スミスは言っています。
 震災後、地域の変化をずっと見続け、忘れそうになってしまう記憶をありのままに、紙面を通して伝えてくれている日々の新聞は貴重な存在です。ストリート・オルガンは一つの物語を、1冊の本を読んでもらっているかのようで、読んだあととてもあたたかい気持ちになれます。奇跡のピアノや若草物語やニューヨーク公共図書館のことなど、読むたびに知る楽しさを満喫できるのです。
 私にとって日々の新聞は大きな窓です。その窓から爽やかな風が吹いてきたり、時には激しい風が吹いてきたりもします。まるでボブ・ディランの「風に吹かれて」の歌が聴こえてくるようです。そんな風に吹かれながら、これからも日々を大切にそして丁寧に暮らしていきたいと思います。

(船橋市在住)

 

そのほかの過去の記事はこちらで見られます。