紙面を読んで From Ombudsman | 461号 |
安岡 正彦
特集「この11年」の崎山比早子さんのはなし(458号)は興味深く読ませていただきました。
甲状腺がんの過剰診断論への冷静な批判は、説得力にあふれていました。福島県の小児甲状腺がん患者は300名を超え、通常の数十倍も多発しています。崎山さんは「科学的手法とは、確実な事実に基づいて不確実なことを推定することです」と述べ、不確実な推定線量に基づき、確実な甲状腺がん多発を否定することは科学ではない、と一刀両断しています。
ぼくは2012年から山口県で保養キャンプを始めましたが、同時に被曝労災の梅田裁判の傍聴にも参加し始めました。梅田さんは1979年に、島根原発と敦賀原発の原子炉格納容器内などで配管工として働きました。体調不良に苦しみ続け、2000年には心筋梗塞を発症。労災申請をするも不支給。2012年に国を相手に裁判を起こしました。
しかし福岡地裁、高裁ともに敗訴。福岡高裁に至ってはわずか5秒の判決言い渡しでした。原発作業と心筋梗塞との因果関係は全く認めませんでした。線量計や警報器を外させ、被曝線量を少なく装う被曝隠しが下請け労働では日常的に行われていた事実を、梅田さんは法廷で切々と訴えましたが、裁判所は全く認めようとはしませんでした。
梅田裁判5周年を記念して崎山さんによる講演が福岡でありました。「低線量放射線被ばくの真実」というテーマでした。崎山さんは、福島の復興を子どもの健康や人権より優先させる政策は止めさせねばならない、と力説されました。子どもや労働者の立場に寄り添い、確実な事実に基づき不確実なことを推定する立派な科学者だと思いました。しかし、誠に残念なことですが、担当裁判官たちには科学的手法を理解する能力が著しく欠如していました。
(年金小百姓=北九州市在住)
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