omb472号

 紙面を読んで From Ombudsman472 

 

画・松本 令子

 

 植田 玲子

 

 ここ5年間、毎朝夕九分間の町歩きをしています。距離を測ったことはないのですが、時間から推せば600mといったところでしょうか。少々遠い月極駐車場から職場までの通勤です。魚屋さんの朝の準備の水しぶき、公園をお掃除するご老人、春の芽吹きから紅葉、冬枯れまで街路樹や道端の雑草が季節の移ろいを見せてくれます。道すがらの理容店の店主さんは、毎年珍しい稚魚を分けてくださるメダカ友だちになりました。
 10月15日付号の月刊クロニクルで安竜さんが紹介する『ひとり遊びぞ我はまされる』の著者川本三郎さん曰く、「いい町だとぶらぶら風景を楽しみながら歩けば、一時間はすぐにたってしまう」と。いい通りを選んで歩いているわけではありませんが、この朝の9分があっという間にたってしまいます。たった9分だから当たり前かもしれませんが、私の朝の貴重な「一人遊び」の時間です。
 それにしても、川本さんが著書のタイトルに引用した良寛の和歌「世の中にまじらぬとにはあらねども ひとり遊びぞ我は勝れり」には膝を打ちました。
 還暦を過ぎた今日この頃、まだまだ遠くにかすんではいるけれど、私の視界にもこんな人生の境地が入ってきたような気がします。特に上の句、「一人遊び」は最高だけど、だからと言って世間との交流を断つことなく、訪れる人があればよろこび、誘われれば人の家にも出かけてゆくという懐の深い大人の余裕がカッコイイ。こんな本当の大人を目指して、一人遊びを楽しみたいと思います。
 何はともあれ、明日はゆっくりと遠回りして町の本屋に歩いて行って『ひとり遊びぞ我はまされる』を買うことにしよう。

(いわき市立美術館学芸員)

 

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