omb474号

 紙面を読んで From Ombudsman474 

 

画・松本 令子

 

 植田 玲子

 

 長い鼻をシュノーケルのようにして海の底を歩くことが得意な「レインガ」。瀬戸内海を住処にして、海底に沈んでいるものを拾っては、それにまつわることをいろいろと想ゾウするのが大好きな背丈150㎝ぐらいの小さな象だそうです。
 私たちは空を見上げて、果てしない宇宙の神秘に思いを馳せます。しかし、われわれの足元の地面からつながっている海底は、実は宇宙の匹敵する謎のベールに包まれた領域です。アーティスト日比野克彦が語るレインガは、この近くて遠い海底に眠る物語を私たちに見せてくれる象らしい。
 さて、レインガが遠く瀬戸内海からいわき沖まで海底を歩いてきたら、果たしてどんなものを見つけるのか、どんな想ゾウをするのか興味津々です。鳴門海峡の大渦潮にもまれて太平洋に出て北上、日本海溝に足を滑らせないように注意してさらに北上、温かい潮と冷たい潮のぶつかるところまできたら、そこがいわき沖です。まだ熱を帯びていた地球のダイナミックな営みの痕跡、生命の誕生に始まる豊かな海の物語、そして現代の人間が海に落としてしまったもの、そしてこれから捨てようとしているものの影。
 見えないものを見えるようにするのが科学技術の力であれば、人には見えない世界のことを想像する力があります。象のレインガは、豊かな時間を過ごすために「昔のことや未来のこと、ここではない海の向こうのこと、まだあったことのない人のことをずっと想像していたい」と夢みています。AIの発達や地球外知的生命体との遭遇など、遠い未来はわからないけれど、今、この力を備えている唯一の存在が人であるということは、間違いないはずです

(いわき市立美術館学芸員)

 

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