omb477号

 紙面を読んで From Ombudsman477 

 

画・松本 令子

 

 佐藤 晟雄

 5年ほど前になるか、いわき市の吉田勉子さんの半生記が30回に渡り連載されたことがある。彼女はその掲載紙を毎号送ってくれた。吉田さんは同じ大学・同じ部に属した後輩であり、卒後設立した部のOB会の仲間であり、最後まで苦楽を共にしてくれた同志でもある。
 吉田さんは30代半ばから郷里の高校の教壇に立ち、そこで同僚になったのが現在、「万葉植物」を連載している湯澤陽一先生で、吉田さんの半生記には2人の写真も掲載されたことがある。湯澤先生は会津若松の生物同好会にも属しておられるとか。私の家内の実家が鶴ヶ城の天文台近くにあり、若松は何度も訪れた懐かしいところ。
 そんな関係もあって、毎回興味深く拝見させてもらっているが、歌の解釈もさることながら、詠み込まれた植物の解説はさすが。浅学のため見覚えの万葉集の歌は少ないが、昨年11月15日号(473号)に載った「三栗の……」の解説の中に、確か中学のころだったと思うが、国文の時間に習った有名な山上憶良の「瓜食めば 子等思ほゆ 栗食めば……」の歌があり、万葉集で栗を詠んだ歌は3首で、あと1首は柿本人麻呂の歌だとあった。
 流刑の地で果てたと言われる柿本人麻呂を描いた梅原猛の「水底の歌」は話題になったが、その一方で、万葉の歌人、歌聖と言われた人麻呂の三栗の歌を一目見てみたい気もする。
 憶良の歌は、はるか昔の中学時代と、今はなくなった水戸の屋敷の裏庭にあった大きな栗の木を思い出させ、遠くなった故郷、水戸を蘇らせてくれた。

(印刷学会出版部元編集長・柏市在住)

 

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