紙面を読んで From Ombudsman | 479号 |
佐藤 晟雄
ズリ山の絵の写真を大きく入れた懐かしい朝倉摂の特集が組まれたのは472号(2022年10月31日)だった。「懐かしい」と書いたが、実際に彼女の彫刻や絵を見たのは、東京・谷中の朝倉彫塑館で開かれた娘の摂・響子姉妹の作品を含めた「親子三人展」を見ただけである。
その摂が舞台美術の分野に進出し、蜷川幸雄らと活躍していたとは知らなかった。「階段だけのシンプルなハムレット」と記事にはあったが、この「ハムレット」は見てみたかった。当然、違うだろうが、後年観たサルトルの「汚れた手」では舞台に階段が多く使われていたので、あのような感じかなと、彼女の舞台を一人で想像してみた。
「ズリ山は上部が削られ平坦になり、年月とともに木が生い茂り」ともあった。この写真を見ていたら、かつて読んだD.H.ロレンスの『Sons and Lovers』を想い出した。
この本の冒頭にはあちこちにぼた山が見える。彼(本の主人公でもあり、ロレンス自身でもある)が生まれた炭鉱町の風景が描かれている。卒論制作のため、一連の彼の本を読み漁った大学四年の夏を思い出す。
前述の朝倉彫塑館には何度か訪れた。学生時代の仲間と3人で行った時に「今度はお世話になった先生と一緒に来よう」と約束したが、1人はすでに故人となり、もう1人は病に倒れリハビリ中。ロレンス研究では知られたその先生も一昨年秋には帰らぬ人に。先生と一緒に4人、熱海の温泉で過ごしたあの夜は終生、忘れられぬ想い出です。
(印刷学会出版部元編集長・柏市在住)
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