紙面を読んで From Ombudsman | 484号 |
寺川 真弓
日々の新聞のことは2021年、ギャラリーいわきで個展をした時に初めて知りました。私は奈良で生まれ育ち、現在は桑を植え、お蚕さんを育て繭から糸を挽き、草木で染めた糸で織りをしています。この透明感のある布はいのちそのもののように感じられます。
東日本大震災の前まで東北地方は訪れたことがなく、遠いところでした。その後、いわきから奈良に避難移住された彫刻家の安藤榮作さんと長谷川浩子さんとのご縁のおかげで個展をする機会をいただきました。
その個展が日々の新聞第445号で記事になり、読んでびっくり、なんでこんなに私のことをわかってもらえたのかと。個展をみていただいた後、1時間ほどの取材を受けた時、最初はどうなることかと思いましたが、その優しいおだやかなまなざしに励まされ、なんとか自分なりに話せた満足感がありました。そして、自分の伝えたかったことの芯をしっかりととらえてもらった記事を読み、だれかに本当のことが伝わるってこんなに幸せな気持ちになるんだと身をもって深く感じました。
日々の新聞のどの記事もこんなふうにすき間だらけの言葉をていねいにすくいとり、声なき声に耳をかたむけ大切に書かれたものだからこそ、どこを読んでも心に響いてくるのだと思います。
奈良では東北の情報がほとんどありません。日々の新聞が届けてくれる生き生きとしたゆがみのない本当の東北の姿は、真実がかくされ、何をよりどころにすればいいのか手探りしながらの生きづらい世の中で、私の大切な羅針盤です。
(染織家)
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