紙面を読んで From Ombudsman | 486号 |
寺川 真弓
日々の新聞の存在を知ってからは、迷うことなく定期購読を申し込み、月2回郵便で届くのを楽しみにしている。電子版もあるが、もちろん私はアナログ派。バイクの音が聞こえ、郵便受けがバタンと閉まる音が聞こえると、織っていても気になって仕方ない。急いで郵便物を取りに行く。このごろの郵便事情で遅れがちな日々の新聞がやっと届いた。この「やっと届いた」という喜びは、電子版では味わえない。
そして、手に取ると紙の質感と黒の濃淡で構成された上品な紙面に心が落ち着く。大手新聞の派手な文字や色に惑わされることもない。あり得ないことに、日々の新聞に掲載される広告には「お値段がいくらでお得です!」というたぐいのものがない。どれも小さい面積にそれぞれの想いがぎゅっと詰まっていて、記事と同じように読み応えがあるものばかり。いろんな立場の方が発信する愛ある言葉を読んでいると、心が温まってきて気持ちも前向きになってくる。
資本主義経済の末期的症状が加速し、非効率なものやお金にならないものが簡単に切り捨てられていくことに疑問を感じないではいられない。そういうものにこそ、生きる喜びのヒントがいっぱい詰まっていることを日々の新聞はゆっくり、やさしく、ていねいに教えてくれる。
養蚕や座繰り機で糸を挽くことも時の移り変わりのなかで、まさに風前のともしびだ。でも、なぜそこにこだわるのかと言えば、いのちが宿る布になるから。光をまとい美しく輝く布が見る人の心を動かすのは、そこに生きる喜びが見いだされるから。そう信じてそめおりしている。
(染織家)
そのほかの過去の記事はこちらで見られます。