omb490号

 紙面を読んで From Ombudsman490 

 

画・松本 令子

 

 吉田 美佐子

 鹿児島市の磯海水浴場では、7月10日に海開きが行われました。穏やかな錦江湾とふり注ぐ太陽の光の下で、待ってましたとばかりに子どもたちは歓声と水飛沫をあげます。
私の手元にある488号の1面は、黒田征太郎さんが描く海。墨一色で描かれた丘、波、波打ち際に沿って整然と置かれた骸骨。死に瀕した暗い海の姿です。手描きで「海洋放出しないでください」の1行。まだ間に合う、という希望が込められているように思います。征太郎さんの絵には人間の弱さや愚かさを見つめつつも、それに屈しない現代の神話性のようなものを私は勝手に感じているのです。
現在、私は鹿児島市内で子どもの本屋をしています。今年でまだ18年ですが、絵本や児童文学はいいなあという思いが年を経るごとに強くなってきています。周囲の特に年配の男性からは「絵本屋さんですか、いいですね夢があって」と当初はよく言われたものです。そういった反応がとても多かったです。何だか少し、馬鹿にされたような気持ちになることもありました。
 絵本は荒唐無稽で単なるフィクションの世界だと捉えられているのかもしれません。しかし、絵本を楽しむには胆力も必要かもしれません。胆力とは、物事を恐れたり気後れしたりしない気力、度胸とあります。物語に触れることで人間の感性が揺さぶられる。そして感情という太い幹が育つには、物事を正面から受け止める力も必要ではないかと思います。488号に描かれた海の姿を現実のものにするのか、この先も子どもたちの声がこだまする海にするのか、単なるフィクションじゃない現実の選択が私たちに迫っている焦りを感じます。

(絵ほん・cafeアルモニ店長)

 

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