紙面を読んで From Ombudsman | 491号 |

藤田 忠平
第489号(7月15日発行)は米国在住の現代美術作家・蔡國強さんの特集だった。福建省泉州市で生まれてから現在に至るまでの芸術活動の半生が詳しく紹介されていた。紙面下段の「年譜」1988年に「ギャラリーいわきで個展『火薬画の気圏』を開く」とあった。鷹見明彦さんに紹介されて蔡さんに出会ったのが35年も前のことなのかと、つくづく思う。
1988年の5月、各駅停車の電車でやってきた蔡さんを磯原駅で出迎え、画廊に行く前にどうしても案内したい場所に連れて行った。五浦海岸の切り立った崖の上で、今は天心記念美術館が建っているが、当時は松の木とススキの他は何もない高台だった。そこからの眺めは絶景で、そこに立つと自然に心が洗われてゆくような場所だ。
北の方角に延びてゆく海岸線の先には東に大きくせり出した小名浜の岬が臨める。空と海と海岸線が織りなす景色は絶妙だ。
蔡さんもこの場所がとても気に入ってくれたようで「いわきの海は美しいですね。中国にはこのような海岸はありません」と言って、しばらく静かに眺めていた。
国立新美術館の蔡國強展で数年ぶりに出会えた五浦美術館長の小泉晋弥さんにその話をすると、「天心先生もあの崖の高台に強くひかれるものを感じていた」と教えてくれた。良い気が流れる場所の良い話であった。
(ギャラリー経営・北茨城市在住)
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