紙面を読んで From Ombudsman | 497号 |
齋藤 貢
2023年8月24四日、汚染水の海洋放出が始まる。「日々の新聞」の第492号(2023年8月31日付)と第493号(2023年9月15日付)の特集は海洋放出の前後で行われた集会の様子や参加者の考えを詳細に取材していて、とても参考になった。
「待ったなしの状態だから」と言い訳にもならない常套句を口にした上で、「関係者の理解なしにいかなる処分も行わない」とした約束を政府はあっさりと反故にした。いったい何が待ったなしの状態だったのか、今でもよくわからない。廃炉について、詳細な計画も最終形も示さず、あらかじめ決められていた(?)海洋放出の日程をただそのまま強権的に推し進める。問題に正面から向き合おうとしない政治の無責任な姿勢ばかりが目についた。
海洋放出の説明会も同じだった。東電も経産省も規制庁も、それぞれ担当者が淀みなく流暢に説明をする。同じ説明をきっと何度も繰り返しているからなのだろう。しかし、説明の中身は既に報道されている事実の繰り返しで、知りたい内容はほとんど含まれていない。聞きたいのは、担当者の説明の先にあるわたしたちの不安や疑問、汚染水の安全性。そこに踏み込んだ直接的な答えを期待したのだが、残念ながら、質問に誠実な答えが返ってくることはなかった。想定問答が既に定められていて、それ以上は担当者が答えられないのだとすれば、それはいったい何のための(誰のための)説明会なのかと思ってしまう。手厳しい質問には、答えにもならない説明をひたすら同じ言葉で何度も繰り返す。国会答弁や記者会見で見慣れてしまった景色とまったく一緒で、「丁寧な説明」の常套話法にほかならない。虚しさと憤りを胸に抱えたまま、会場を後にした。
(福島県現代詩人会会長)
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