紙面を読んで From Ombudsman | 506号 |
平野 雅彦
「日々の新聞」500号(お芽出とうござい満寿)が手元に届いたとき、一瞬その意匠からこれまた定期的に届くファッションブランドCOMME des GARCONからの雁書(ダイレクト・メイル)かと早合点した。すぐさま封を切って手に取り、茶の湯の作法よろしく紙面をぐるりと回してみると、さっそく絵本を紹介している記事が目に飛び込んできた。
そこではマーガレット・ワイズ・ブラウン(米国、1910―1952年)の言葉を拠り所とした正鵠を得るメッセージが述べられていた。わたしもブラウンのご贔屓さんを任じており、編集部の選書に加えて『ぼくらのはたけしごと』(好学社、2023年)にふれておきたい。
ものがたりはいたって簡素である。ふたりの子どもたちが畑に野菜の種や苗を植え付け、育て、食べるまでを季節の移ろいのなかで描いている。これを読んだ子どもたちは、食卓に並べられた野菜が、実は手間暇かけて、長い時間を経たのち、いま目の前の皿に盛られていることを追体験する。
この本が今注目を集めている要因のひとつには、コロナ禍以降の畑仕事や土に対する興味関心への高まりによるところが大きいだろう(ちなみにわたしは、ここ3年で約70本の樹木を自宅敷地に植えた)。おはなしの最後では畑の歌「しゅうかくいっぱい」が歌われる。たしかに労働と歌はつねに分かちがたく結び付いている。たとえば、わたしの暮らす静岡県では、山の峰々に特有の労働歌としての茶摘み歌が残る。
畑仕事と土といえば、もう1冊どうしても紹介しておきたい絵本がある。かこさとし(加古里子)の『にんじんばたけの パピプペポ』(偕成社、1973年)だ。なまけものの20匹のこぶたが畑を耕し、にんじんを育てていくも、没義道、滅法無頼に横槍入り、それでもものがたりの最後には、みんなで畑の土を使ってレンガを焼き、保育園、図書館、劇場を建て、さらに余ったレンガで小さな家をつくるというおはなし。まさに文化芸術、ここに極まれり。
さて、本稿結尾にもう1冊。レオ・レオニ『フレデリック』(好学社、1969年)は外せない。無能者だとまわりから揶揄されるネズミのフレデリック。実は最終ページでその正体が仲間によって明かされる。「フレデリック、きみって…」。なるほど、詩は売れない、読まれないなどと戯言を抜かしている輩はどこのどいつだ(乱暴でスミマセン)。
この3冊、特に大人必読。推奨、折々の韋編三絶。
(アーツカウンシルしずおか特別相談員)
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