紙面を読んで From Ombudsman | 514号 |

あべ みちこ
513号の「たった一輪。希望のハスが咲いた」を読んで、たじろいだ。ハスの花が復活した朗報にもかかわらず、ヒール役の外来種亀に、私は釘付けになった。ハスの芽を食べ尽くしたであろう悪者、アカミミガメ。今や、ちょっとした池があればうじゃうじゃ潜んでいる。池に住む生物を食べ尽くし生態系を破壊する。繁殖力もすごい上、長寿で数は増える一方だ。かつてミドリガメと呼ばれた小さな亀が、大きくなって疎んじられ、捨てられている。
8年前の夏に捕獲した亀も、そんな1匹であった。私の住宅は森が近く、緑豊かだ。その一角である日、20センチほどの亀が、子どもたちに取り囲まれていた。棒で小突き、素手で持ち、嫌がる女児に近づけ、笑って放りだす。乱暴な男児の悪戯を見かねて、「亀は縁起のいい生き物だから意地悪するとバチがあたるよ」と半ば脅して止めさせた。
家のバケツを取りに引き返して捕獲。近くの小学校へ出向いて、池で飼ってもらえないか掛け合ったものの、夏休みになるから難しいし、外来種はちょっと……と、にべもなく断られた。役所に問い合わせると、外来種は即殺傷処分、と冷ややかに宣告を受けた。「カメ預かっています」と住宅内に貼り紙をして何カ月か呼びかけても、だれも名乗り上げる人は出てこなかった。ああ、この子には何処も行き場がない。ならば、しばらく預かって、ほしい人が現れたら託そう……と、軽い気持ちでベランダの一角に四角いプールを置き、飼い始めた。
元来生き物好きなため、人間の都合で捨てられた命を放っておけなかったのと、実はもう1つ、こだわる理由があった。とはいえ妄想の域を越えない余談だが。
息子がまだよちよち歩きのころ。飼っていたミドリガメの水換えをやめるよう、家族から指摘を受けた。サルモネラ菌感染の恐れがあるらしく、子育て中のリスク回避のため逃がすことにした。当時は外来種認定はされておらず、手の平サイズのミドリガメはお祭りの出店で売られていた。
後ろ髪を引かれる思いでミドリガメを近所の池に放すと、手足を広げて気持ちよさげに泳ぎ、水面に浮かんでは沈む無邪気な姿に安堵した。「また会いに来よう」と幼子の手を引いて去り、1週間後に行くと、すっかり姿は消え失せていた。誰かが見つけて持って帰っちゃったのかな? それともカラスに食べられちゃったのかな? いったん手放したくせにモヤモヤを抱えたまま雑多な日常に紛れ、何年も経って記憶の彼方に葬り去られた。
それから20年ほど過ぎ、亀の再来となった。もちろん別れたミドリガメとは限らず、あり得ないのだが。ミドリガメ同様、カメミと名付けた。どちらも性別はオス。巡り巡って人生で2度も亀を飼うことになるとは。神様に託されたのだろうか。
恋も知らずに一生を終えるのは気の毒だが、室外にリリースすれば自然破壊の弊害が生じる。けれど、亀が悪者にされるのは何とも心苦しい。ヒール役に追いやっているのは人間なのだから。
連日、気温37度超えの今夏。灼熱地獄を喜んでいるのはカメミくらいだ。私より長生きするであろう亀をどうするか。先のことは棚上げのまま、この夏も共に過ごす。いつか竜宮城へ連れていってくれることを夢見て。
(コピーライター)
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