omb519号

 紙面を読んで From Ombudsman519 

 

画・松本 令子

 

 坂口 美日

 第517号の特集「隣町のできごと」を、まるでサスペンスドラマの筋書きを読むようにハラハラドキドキしながら読んだ。読み終えた時には背筋が凍りついていた。問題の大津漁港は茨城県の最北に位置し、5㎞も北上すれば福島県だ。その大津漁協で、水揚げされた水産物の放射線量改ざんが行われ、補助金を不正受給していたことが、1人の青年労働者の内部告発によって明るみとなった。そして青年は解雇され、解雇撤回を求めて起こした裁判は、水戸地裁では勝訴するも、大津漁協は控訴し東京高裁へと持ち込まれ第2審を待つ状況とのこと。これがドラマであれば、「悪行はバレて正義は勝つ」というクライマックスも期待できるが、この国の実話は、そう生易しくは進まない。逆に公然と勧悪懲善が進められ、無実の人を死刑囚にもしてしまう。
 しかし、昨年の8月24日から公然と放射能が海に流されるようになり、粛々と海の生物に放射能が蓄積し始めているいま、大津漁協の改ざんはどの漁協でも起こり得る。だからこそ、不正を訴えて立ち上がった青年労働者の闘いと勝利は、日本の漁協の足枷となり、食の安全を守ることに通ずる。心からこの裁判を応援したいと思った。
 第518号のトップ面「まちの魂を泣かせてはいけない」を読み、歴史ある温泉の町の顔「湯本駅」周辺で大問題が起きているらしいことを予測しながら特集「何を間違えたのか―湯本駅前再整備」の紙面をめくった。紹介された陳述には共感することが多かったが、一方でこの事業計画のお金の流れに疑問が残った。長岡裕子さんの話の中には「じょうばん街工房21」には助成金や事業依託費が三桁の額で支払われているとあるのだが、「じょうばん街工房21」の会長の小泉智勇さんは、「じょうばん街工房21」は任意団体で活動はボランティアだとあった。だとすれば、3桁のお金の行方は?
 この記事を読み終えてまず思ったのは、市町村大合併の弊害。合併が拡大すればするほど、まちづくりは行政主導になり、小さな町や村の人々の声が埋もれていくのは今に始まったことではない。「いわき市よ、お前もか」と思った。
 私は、全国に会員のいる音楽団体の役員をやっているので地方に出かけることが多い。そしてどの駅に降り立っても、どこかで見たような画一化された光景が増えてきたと感じている。その土地の歴史や特性が大切にされているだけに利用者に優しい雰囲気だったり、駅舎が個性的だったりすると、もうその駅を忘れることはできず、「また行きたい」と思ってしまう。だからこそ、「まちの魂」のこもった「湯本駅」として再生されることを願って止まない。

(音楽団体役員)

 

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