| 紙面を読んで From Ombudsman | 535号 |

宍戸 博
『わたしの劇団ポポ回想記』という本をご存じだろうか。本紙にも広告が掲載されているので、書名くらいは目にされているかもしれない。この本には、半世紀に渡っていわき市内外で子どもたちに演劇を上演し続けてきた「劇団ポポ」の、立ち上げから解散までの歴史が綴られている。作者は劇団の会長であった牧野隆三氏である。この本の出版を私も日々の新聞社と共にお手伝いした。もし良ければ手に取って読んでみてほしい。元アリオス館長の大石時雄氏の筆によって、牧野さんが過ごしてきた昭和初期の子どもの風景も活き活きと描かれている。
アマチュアの劇団が、50年間に15万人もの観客に演劇を届けるのは容易ではない。「劇団ポポ」は、劇団員の子どもへの思いと情熱から上演を続けてきた。いわき市政功労賞を始め様々な賞も受賞されている。演劇が好きな私にとっては、いわきの無形文化財の1つである。
牧野さんは、劇団の活動を記録し続け多くの史料を持っている。ただ市内には個人の史料を保存や公開する仕組みが無く、市民に見てもらえない。せめていわき市の文化史に「劇団ポポ」の足跡を残したくて、出版をお願いした。
いわき市には、「劇団ポポ」以外にも後世に残すべき活動をしてきた文化団体が数多くある。「わたしの劇団ポポ回想記」を置いて頂いているヤマニ書房本店もそうである。文化団体や個人が出版した書籍を紹介や販売され、文化活動を下支えしてきた。そのヤマニ書房本店が6月末に閉店する。様々な理由で文化団体が消えてゆくことは仕方ない。ただせめて作品や史料などが保存され、いわきに存在していた証くらいは残せないものだろうか。
534号(5月31日)には、湯本駅前の再開発や小名浜臨海地区のサッカースタジアム構想が報じられている。新しい施設やイベントは、街の賑わいを生み出す即効薬である。しかし費用や人手がかかるため継続するのが難しい。文化は日常生活そのものである。劇団ポポやヤマニ書房本店のように、地道な活動を継続してゆく中で生み出される活動の蓄積が、地域の歴史となり、豊かな文化に育ってゆく。
いわきの若者たちは、いわきには何もないとよく言う。いわきには多くの文化の蓄積があるのに…。縄文から平安まで連綿と続く古代の遺物や遺跡、国宝白水阿弥陀堂、磐城平城と取り巻く武家屋敷、豪商の立ち並ぶ街並み、草野心平を生み出した文壇、常磐炭鉱の巨大な施設、漁師町の船主たちの瀟洒な住宅、各地に伝承されてきた豊かな民話…。いわきには何でもあった。でもそれらを残しきれていない。
街が大きく変わってゆこうとしている今だからこそ、いわきの文化の残し方と子どもたちへの伝え方を考えたい。街を繋いでくれるのは、子どもと若者たちである。
(「たけのこの会」世話人)
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