ほぼ1年ぶりの志田名は台風19号の被害が大きく、県道41号線は大型車が通 れない状態だった。いつもは鹿又川渓谷沿いの細い道を駆け上がるように志田名をめざすのだが、通 行止めになっていたため遠回りせざるを得なかった。最初に、区長をしている松本英人さん(70)の家を訪ねた。畜産家の松本さんは震災のあと区長になり、現在3期目。話は爪痕が生々しい台風被害から始まった。
松本さんによると、10月12日の夜、バケツを空けるような雨が断続的に降った。その雨が川を溢れさせ、膨大な量 の山の土が田畑に入り込んだ。夜が明け、朝の6時ごろから被害状況を確認するために地区内を見回ると、あまりの被害の大きさに呆然とした。途方に暮れ、三和地区から出ている市会議員に連絡すると、「三和でも4カ所が通 行止めになっている」と言われた。上流である志田名がこれほどの被害を受けたのは、初めてだという。
これほど水が出た原因としては、山がスギやマツの人工林に変わってしまったことも大きい。森林再生事業として間伐が進んだのだが、作業道路をつくるために大型機械を山に入れた。それには山をかなり切り開かなければならない。結果 、保水力が低くなって短時間に水が出るようになってしまった、と言う。
山から流れた土砂が川に入って川底を上げ、川の水が溢れて土砂や流木と一緒に田畑に入って農地が壊れた。水害でやられたのは農地だけではない。川に大量 の水が入ったためにその勢いであちこちの土手が壊された。しかも復旧工事は、応急処置をした程度で、ほとんど手がつけられていない。「こんなことは初めて。想定外だった。ことしの米の作付けも不可能でないかな。いまだに復旧工事ができていないのだから。震災で大打撃を受け、台風が拍車をかけた」と、あきらめ顔だ。