3月から5月いっぱい休業しました。6、7月もイベントは入れていません。ライブハウスは、飲食店のように「あしたから営業開始」というわけにはいかないので、それを考えると、7月も8月もやれないのかな、という感じです。
震災のときは「音を出してみんなのエネルギーをもう一回持ち替えよう。マイナスの部分をプラスにしよう」というものがあり、非常に頑張れたのだけれども、今回は音を出して人を集めること自体だめなので、そこが違います。人を集めると「三密」になってしまいますから。先が見えない、ということです。
正直なところ、観客を入れるのがいつか、と考えると、年明けになるのか、いまから1年のスパンなのか、見当がつきません。これから第2波が来る可能性もあるし、それを踏まえて考えると難しいかな、と思っています。
わたしのところは、全国でも早めに営業をやめた方です。大阪でクラスター感染があったときに、ライブハウスはマスコミに騒がれました。ここで強引にやって万が一クラスターが起きたら大変なことになる、と思って早めに自粛に入ったわけです。正直、ここまで長引くとは思っていませんでした。
この3カ月は資金繰りがあるのでセーフティネットを利用させてもらいながら、投げ銭的な生配信を何度かやりました。正直、収益はさほどでもなかったです。4月に入ってから「ハコを持続させるために、生配信やって収益を上げてくれ」というアーティストが何人かいて、「そっちに行こうか」と言っていた矢先に東京で緊急事態宣言が出て、こちらへの移動ができなくなりました。
ソニックプロジェクトは、「いわき規模のまちではライブハウス単体での商売は厳しい」とアドバイスを受けていたので、ライブハウスだけでなく、外でのイベント企画、音響の仕事など、収入源を何本か立てて始まりました。これからはまず、外での仕事や音響関係にシフトして、それが一段落したらライブハウスかな、と思っています。
それ以外にもアーティストが配信で自分の楽曲を売って各ライブハウスに分けてくれたり、お客さんもオリジナルTシャツや缶バッチなどを買って支えてくれています。自分たちが育った場所なので、「ライブハウスがなくなったら、これからの音楽文化はどうなるんだ」という危機感を持っているようです。
地元の飲食店もつらい状況ですが、できる限りテイクアウトを利用して協力しています。地元の店には残ってもらいたいし、一回なくなったら「もう一回やってくれ」と言っても、なかなかできないですから。なんとか踏ん張ってほしいと思っています。
「club sonic」は2001年に始まって、ことしで19年、来年が20周年です。そろそろ20周年記念公演の準備をしようと思っていたら新型コロナになってしまったので、「それどころではない」という感じです。10周年のときは震災だったので、区切りの時にお祝いができていないんです。
高校から東京に行き、11年いていわきに戻ってきました。バンド活動などもしていたので、ライブハウスがないのが寂しかったですね。最初のうちは、音響を持ち込んでライブなどをやっていたのですが、地元の若者が音楽で身を立てようと思うと東京に出るしかない、という現状がありました。それで、ぎりぎりまで地元で活動して東京に出るスペースが必要だな、と思ってライブハウスをつくったんです。
東京の新宿LOFTで音響をやっていた、新妻さんという四倉出身の男性がいて、いずれいわきに戻ると聞いていたので、立ち上げを決意したんです。2003年には水戸にも進出し、いわきでも現在の200席規模の場所に移りました。音がいいと評判で、著名なアーティストが来るケースも多いんです。この20年でバンドがかなり増えたし、地元に留まるバンドもあって、「sonic」の存在が、いわきの音楽文化育成に一役買っている、と自負しています。実際、「いわきは独特のライブ文化がある」とも言われていて、「sonic」の影響は大きいのだと思っています。
ライブは生なので、「ライブじゃないと感じられない」という面が大きいんです。ライブハウス側の人間としては、「生配信はライブとは真逆なもの」だと思っていましたから、まさかコロナのおかげで、こんなにさまざまなシステムを勉強することになるとは、思ってもいませんでした。仙台、福岡、大阪ではライブハウスが配信することに対する助成金が出ているので、福島県とかいわき市でも何か考えてくれたら助かるのですが…。
前のかたちに戻れればいいんですが、おそらく無理だと思います。考えられるのはライブと配信の融合で、ライブハウスそのものも音楽以外の使い方を考えて行かなければならないかもしれません。ライブ配信については1日1日の進化がすごいんです。みんなが求めているからか、四月の時点ではYouTubeしかなかったのに、そのあといろんな所が一気に開発していいきました。ここは発展の余地があるので様子を見ています。
さらに可能性があるのはツアーをすべて追いかけたいファンのための、ツアーを配信です。仕事などの関係ですべてはいけないけれども映像なら仕事から帰ってきて見ることができるわけです。入場料はいくらかわからないけど、安くなっていれば見るし、収益的には成り立つ可能性があります。家でゆっくりライブ映像を見て、アーカイブとして3日ぐらい残すようにすれば、観客が戻ってきたあとも、できる可能性があるかもしれません。
コロナでこれから政治や経済が補っていくわけですけれども、それを補いきれない部分を民間のライブハウスや映画館がカバーしていかないと、人間の深みがなくなってしまうのではないか、みんな同じ人になってしまうのではないか、と心配しています。
寺山修司が「政治や経済ができない部分を補っていくのが文化だ」と言っているのですが、まさにその通りだと思っています。わたし自身、人格形成を図るうえで音楽や映画の存在がとても大きかったので、文化の衰退がとても気になります。表現者はもちろん、制作会社のこともすごく心配です。ただ、コロナのこの状況のなかで、新しい表現が出るのかもしれない、という思いもあります。
エンターテイメントのなかで最後に復活するのがライブハウスかな、と思っていて、野外イベントをやるようになったら、満を持してライブハウスになるのでしょう。でも実際は200席の「sonic」でも、ぎゅうぎゅう詰めになるライブは、年間10回あるかないか何ですけれどもね。実際はないですよ。
名前が売れているアーティストがふらっと来てライブやるような、いわきはそういう町でありたいですよね。