417号

 「高久にめだか屋さんがあるんだよ」。少し前にそう聞いた。下高久谷川瀬線の滝前地蔵菩薩の信号から滑津川の方に入って小名浜四倉線に抜ける道沿いに「めだか屋はこっち」と知らせる看板がある。
 たまに通るが、気づかなかった。看板に誘われ道を入って行くと、小さな案内があって、住宅地の奥にそれらしいビニールハウスが現れる。周囲に数えきれないほどの四角いたらいが並んでいる。
 めだか屋(いわき市平下高久字八幡120)の店主は鈴木真広さん(35)。本業は庭師で、震災のあと、すいれん鉢でスイレンを育て、ボウフラ対策にメダカを飼い始めた。ペットショップで琥珀メダカを10匹ほど購入した。
 メダカは雑食なのでプランクトンやミジンコ、ボウフラ、植物など何でも食べる。間もなく、メダカは卵を産み、たらいでも育てるようになり、いつの間にか夢中になった。
 メダカと言うと、田んぼや川にいるクロメダカが頭に浮かぶ。しかし品種改良がされて種類は多く、赤っぽいものや背中が光るもの、丸くずんぐりしたものなどさまざま。とても丈夫で育てやすく、上手に飼育すれば卵を産み、親になるメダカを選んで繁殖させると、好みの色や形のメダカを殖やすことができる。
 飼うときには水槽などに丸みのある砂利を敷いて、カルキ抜きをした水を入れる。1匹に1ℓが目安で、2~3ℓにすると体が大きくなりやすい。水草はホテイアオイがいい。ひげ状の根が産卵に適し、葉は日光や外敵からメダカを守り、水の富栄養化を防ぐ。
 水替えは週に1度、3分の1ぐらいを交換する。カルキを抜いて、水温の差を5度以内にして入れる。変温動物のメダカは水温によって活動が違い、冬は半冬眠状態になるので、餌は与えなくてもよく、水替えもほとんど必要ない。餌は市販のものがいい。
 できるだけ陽当たりのいい屋外で育てるのが理想。太陽の光は殺菌作用があり、病気にかかりにくく繁殖力も増す。植物プランクトンが生息するグリーンウォターがメダカを育てるにはいい環境で、産卵の数も多くなる。
 鈴木さんは2015年、近所の人に勧められて道の駅よつくら港でメダカを売り始めた。瓶に砂利を敷いて水草を入れ、オスとメスを1匹ずつ泳がせて500円。多い時は月に100個ぐらい売れる。
 メダカのオスとメスは背ビレと尻ビレで見わける。オスの背ビレはつけ根に切り込みがあるが、メスにはない。尻ビレもオスは四角く、メスは三角になっている。産卵は4月中旬から9月中旬ごろまで。一つのペアで年に1000個の卵が生む。メダカ自身が卵や稚魚を食べてしまうので、根っこに卵のついたホテイアオイは、ほかに移した方がいい。卵は10日ほどでふ化する。
 1年後、鈴木さんは自宅のそばで「めだか屋 鈴木」を始めた。全国的なメダカブームのなかで、ここ3、4年の間に飼育人口は増え、競い合うように品種改良がされている。最も高いもので250万円もする。目の色が変化するメダカという。
 鈴木さんの店にはいま、細かくわけると百種類以上のメダカがいる。人気はヒレ長ブラックダイヤや透明鱗紅白、真っ黒なクロパンダなど。売れ筋はヒレや体に赤みが出ている楊貴妃や、背中に輝青ラインのある幹之口先光ショット(半ダルマ体型)などで、値段も手ごろ。訪れるのは30代以上の男性が多いが、最近は女性もいる。なかには神奈川や新潟からも来ている。
 「メダカは見ているだけで癒される。きれいなメダカをつくっていきたい」と、鈴木さんは話す。営業時間は午前9時から午後5時まで。定休日は火曜と水曜。