435号

球磨村の渡小学校ピアノのこと
 
 いわきは一昨年の台風19号で、平窪などが大きな被害を受けました。台風のあとに「直るものなら直してほしい」と連絡があり、少ししか水に浸かっていないものも含めて、私は60台ぐらいの被害に遭ったピアノを修理しました。
 昨年7月の豪雨で大きな被害に遭った熊本県の球磨村に災害ボランティアで入った兵庫県の男性からも「小学校の水没したグランドピアノを直したいのですが」と、電話がありました。男性は音楽家で、メーカーに問い合わせたところ「水に浸かったピアノは無理です」と言われてしまったそうです。でも、あきらめきれずネットで探して、私に連絡をくれました。
「とりあえず現状を見ないと」と、その男性と一緒に渡小学校に行き、体育館で横倒れになっていたピアノを見せてもらいました。隣の高齢者施設ではお年寄り14人が犠牲になっています。
 校長先生と村の教育長が待っていてくださって、お二人も豪雨以来、体育館に入るのは初めてだったそうです。私は「やってみましょう」と返事しました。「このピアノは村のだれもが知っていて、復活させられるなら、こんなにうれしいことはありません」と、教育長はおっしゃっていました。
 ピアノの状況は豊間中のものと同じでした。豊間中のピアノは海水なので塩分対策をしなければなりませんでしたが、渡小のピアノは濁流の粘土質の厚みのある泥がびっしり付いていました。泥をそぎ落として、高圧洗浄機で洗って。カワイの37年使われたピアノですが、生きようとする力がありました。いわきで3カ月かけて修理し、卒業式に間に合わせました。
 
 豊間中のピアノは、まずやってみることが必要ということを、私に教えてくれました。挑戦してみることでハードルが見え、それを乗り越えるための方法や対策を考え、再生させることができました。難問なので、やってみようとする勇気がわいてくるまで時間がかかりましたが、踏み出してよかったです。それによって「あそこなら直せるんじゃないか」と電話をもらい、たくさんのピアノを修理することができています。