437号

 汚染水を流すことには、あくまで反対です。「トリチウムは前から流しています。安全です」と言うのだけれども、なんで、ここにきて急にそんなことを言うんですか、という思いが強いですね。
 小学校6年生のときに福島第一原発の見学に行ったことがあります。「トリチウムを流しています」という説明はありませんでした。そのあとも見学や説明会で言う機会はあったはずなのに、「どうして、いま」というのが偽らざる心境です。早いうちから言っていたら違っていたと思います。
 安心というのは、信頼があって初めて生まれるものです。いくら「安全です」と言われても「安心して魚を食べる」ということにはならないはずです。東電はトラブル隠しなど問題があるし、国も漁業者や一般の人たちからの意見に対して、聞く耳を持たない、という感じの決定の仕方をするし…。さまざまな説明を受けたとしても、このあとどうなるかわからないので、危機感しかありません。
 これまで、風評被害を克服するために自分たちで朝市などをやって、少しずつ風評を薄めてきました。いまはコロナでイベントもできず、魚の値段も下がっています。ことしの3月には水温が13度台と高くなって、昨年からコウナゴが来なくなってしまいました。この現象は今後も続いていくでしょう。そうなると、漁業者の張り合いがなくなってしまうんです。
 県漁連などがこれからどんどん、漁を増やしていこうとしているなか、肝心の漁業者たちが出漁を手控えるようになってしまったら、いわきの漁業はどうなりますか。それが一番心配です。 
 いまは1週間に3回、漁に出ています。市場は月・水・木・金と開いていて土・日と火曜日が休みです。当然海が荒れて出られない日もあるので、週3回出漁というのは、あくまで目標です。後継者はいません。息子が3人いるのだけれども、境目が震災とぶつかってしまい、この状況ではまともな商売になりそうもないので、就職しました。でも、若い後継者がいるところもあるので、若者たちが「やっていられねぇよ」とならないように、きちんとした対策をとってもらいたいと思っています。
 わたしの場合は、せいぜいあと10年でしょう。一番嫌なのは、イベントなど自分たちの努力が元の木阿弥になり、無駄になってしまうことです。それが怖いですね。