438号

 いわき市では4月から、75歳以上の高齢者を対象に、新型コロナウイルスワクチンの接種予約の受付を始めている。会場は集団接種の21世紀の森にあるいわきグリーンベースと、個別接種の市内医療機関にわかれ、それぞれ月ごとの予約受付開始日から電話(コールセンター)かインターネットで申し込むようになっている。
 市内の75歳以上の高齢者は約5万人。コールセンターでは電話を4月の20台から倍の40台に増やして対応しているが、つながりやすいのはパソコンでのインターネット予約という。しかし高齢者なので自らパソコンで予約するのは難しく、家族などが代わってしている場合が多い。
 家族などの手を借りられない高齢者は根気よくコールセンターに電話するしかないが、なかには「しかたない」と、あきらめている高齢者もいる。いわき市には「パソコンができないのだけれど」と、不満をぶつける電話が届いている。

 NPO法人やってみっぺ久之浜大久は、6月分の医療機関での接種予約が始まる5月20日、地区の高齢者の予約代行をした。名づけて「ネット予約お手伝いプロジェクト」。あらかじめ区長と民生委員に接種予約をしていないと思われる高齢者宅を訪ねてもらい、「代行を頼みたい」という人には、手づくりの予約依頼票に接種券番号や生年月日、希望する医療機関、都合の悪い日、希望時間帯などを記入してもらった。
 やってみっぺ久之浜大久の共同代表の松本光司さん(63)は4月に母親の集団会場での接種予約をした際、受付開始時間の午前9時前にはパソコンの前で待機していたが1時間過ぎてもつながらず、ようやく10時半ごろに予約することができた。その体験と「予約できていない人がたくさんいる」とも聞いていたため、メンバーたちに相談してネット予約の手伝いをすることを決めた。
 個人情報を提示しなければならないし、急に決めたことでもあったので、松本さんたちは7、8人の依頼を想像していた。ところが46人もの高齢者(うち大正生まれが6人)から頼まれた。これまで7年間のコーディネート役としての地域活動が、信頼につながったようだった。

 予約開始の当日、松本さんたち3人は、メンバーで久之浜の市議の木村謙一郎さんの事務所に集まり、パソコンの前に座った。午前9時、初めはつながらなかったが、15分ぐらい過ぎるとつながり、平の医療機関を希望した人から予約を始めた。「もし予約できなかったらどう言い訳しようか」と思い、緊張したという。
 希望の時間帯が埋まってしまったり、記入ミスと思われる場合には依頼者に電話で確認したが、10時間には全員の予約ができた。安心させたくて、そのあと1人1人に「予約がとれました」と電話で伝えると「ほんとう、ありがとう」と感謝された。その電話連絡を終えたのが、ちょうど正午だった。この間、松本さんは1時間おきにコールセンターに電話をかけてみたが、1度もつながらなかった。
「このプロジェクトは地域の結びつきが強い久之浜だからできること。だれかがだれかを助けてくれる、そのつながり、絆が自覚できるのは大きなこと。それをつくっていきたい。いろんな場所でそういうことができたら、いわき市はよくなると思う」。松本さんはそう話す。
 いわき市によると6月までの予約でおよそ4万件(施設入所者は除く)となり、数字上では8割を超える75歳以上の高齢者が予約を終えたことになる。