439号

 いわき市平塩の国道399号線(元の国道6号線)沿いに「国・東電の安全安心は信用できない 政府は国民の声を無視するな!」と、トリチウムなどを含む汚染水の海洋放出の政府決定に抗議する看板がある。縦60㎝、横3m60㎝の大きな看板。佐藤孝久さん(78)が自宅の塀に取りつけた。
 東京電力の福島第一原発の敷地内のタンクに保管されている汚染水は、原発事故で溶け落ちたデブリ(核燃料)にふれた水で、高濃度のトリチウムのほかにわかっているだけで63の放射性核種が含まれ、多核種除去設備「ALPS」ですべて取り除けるわけではなく、その汚染水を海に捨てるという行為は食卓と直結し「とんでもないこと」という思いからだった。
 それに「関係者の理解なしには(トリチウムなどを含む汚染水の)いかなる処分も行わない」という漁業者との約束も守られていないことなど、これまでの対応を見ていて国や東電の「安心・安全」は信用できないという。
 そんななか「1人1人ができることをやらないと」という言葉に背中を押され、4月中旬の自身の誕生日を記念して看板を立てた。佐藤さんは社民党の党員。看板の言葉に責任が持てるところが必要と考え、許可を得て抗議文の最後に「社民党」と入れた。
 なにも記さない方がいいのかもしれないとも思ったが、あえてそうした。小さな政党になってしまっているが、これまでやってきたこと、これからやろうとしていることに大きな過ちはないと思っているからだ。
 佐藤さんの行動に刺激を受けて、双葉郡の党員たちが海洋放出反対の看板を双葉郡に何カ所か立て、いわき市内でも同様の動きがある。一般の人からの直接の反応はないが、海洋放出に反対の考えを持っている人は多く、看板の効果はあると感じている。
「県民の意思を無視して基地の建設が進められている沖縄の辺野古と同じように、汚染水の海洋放出も押し通されてしまうのではと危惧している。しかし反対の声がもっともっと大きくなれば、海洋放出しないのではないかと思う。だからこれからが大事。放出されてしまったら漁業はだめになってしまうし、魚を食べる気がしなくなる。これはいわき市、福島県だけでなく、全国的な問題」と、佐藤さんは話す。
 色がさめてしまったので、つい先日、佐藤さんは看板を掛け替えた。その際、言葉も「トリチウムによる内部被ばくを見過ごすな 生活(いのち)とつながる海を汚すな」に変えた。トリチウムなどを含む汚染水の海への放出は、漁業者だけの問題ではなくて、自分自身の問題と気づいてほしいからで、歩いている人にも見えるように歩行者の目線より少し高く設置した。