

ワーキンググループでの意見聴取とはいうものの、ここでいくら論じてもどの程度、聞く耳を持ってくれるのだろうという思いはありました。しかし現場の状況を伝えて、1㎜でも2㎜でも「こういう方法を考えないわけにはいかないな」というようになったらありがたいと思いながら、意見を述べました。
前任の県森林組合連合会の会長もそうでしたが、わたしも「海洋放出には反対です」と話しました。一番は風評被害を思ってです。福島県の漁業者、農業者、山に携わる者はこの10年、どれだけ苦労してきたか。
漁業者は試験操業から、ようやく4月に本格操業への移行期間に入りました。農業者は作物などの客観的データを取り、米は全袋検査をして、いろんな対応策を講じ、ようやく福島の米も野菜も心配はなさそうとなりました。値段は安いままですけれど。
そして山ではいまも切り出した木材は平木材市場も、遠野町のいわき木材流通センターも、原木で放射性物質の測定を続けています。何らかの経過で、飛び抜けて汚染されているものがあるかもしれないからです。
例えば、市境辺りだとピンポイントで線量の高い所があります。万が一、そこの木材が測定せずに流通し、樹皮のついたまま東京に届けられて「福島の木材」と調べられ、とんでもないレベルの放射性物質が付いているとなったら、いままでの取り組みが台無しです。
いまでも原木で測って、製材所で製品化して出荷する直前にも測っています。原発事故直後は測定データを製品にすべて添付して送り、やっと関東、関西のお客さんに問題ないレベルと認知してもらいました。ただ万が一の時に振り返られるように、データは添付しなくてもいいが測定はしてほしい、と言われています。
山菜やキノコも、県内の多くの市町村で出荷制限がされています。福島県のシイタケ原木のナラやクヌギは、岩手県と1、2位を争うほどでしたが、10年経っても出荷制限がはずれたのは、会津地方のごくごく一部だけです。
だから林業界にとっても原発事故の後遺症は現在進行形なのです。放射性物質の自然減があるし、雨や風によって樹皮から地面に落とされたものもあるので、移動制限をされる8000Bq/㎏を超えるような木(樹皮が付いたまま)は、いわきにはほぼありません。でもスポット的な場所はぎりぎりに近いものがあるので、山に捨てておくという現実もあります。
そういう状況に輪をかけるような海洋放出によって、ワーキングの集まりで話したのは、カタカナの「フクシマ」のようなことがまた思い起こされ、福島県のものが買い控えされる懸念があります。そのため山の代表である私としては「反対です」と申し上げました。
10日ほど前に、東電がトリチウム分離技術の公募を発表しました。いまさらです。汚染水が発生し、タンクを造るという時点で、プロの人たちは当然、将来の状況がわかっていたはずです。その時に海洋放出でというような考えではなく、はじめから本気になって取り組んでいれば。そういう国民、県民を軽く見ている一つ一つの対応が続いているので、信頼はありません。
いろんな人と話をしていて「山の除染はやらないのですか」と聞かれることがあります。心配はわかりますが、例えば、これだけの面積の除染をしたら、その副作用の二次災害、三次災害の方がはるかに大きな影響を与えます。残念ですが山には静かにいてもらう方がいいです。森林整備をして日光を地面まで届かせ、大雨の時、急斜面などの土が流れないようにすることが大事です。