内田さんで心配なことがある。性格がよく従順なこと、官僚出身であること、そしてさまざまな組織や団体、個人の支援を受けて当選したことによる、ひいきの引き倒しだ。杞憂かも知れないが、周りの要望がエスカレートしてがんじがらめになり、身動きがとれなくなってしまうことを恐れる。そんなときには「市民一人ひとりに雇われている。冷静に優先順位を判断してぶれない」という原点に立ち返ってもらいたい。
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市長は孤独だが、その一挙手一投足を市民は見ている。心強い味方にもなってくれる。そのために必要なことは、市長室をはじめ市役所の窓を広く開け放って隠し事をせず、市民と一緒に考えることだと思う。市長という大きな権力を手にするだけに、少しでも傲慢さが見えれば、市民はそっぽを向く。それを忘れないでもらいたい。
官僚出身の首長で真っ先に頭に浮かぶのは、福島県知事の内堀雅雄さんだろう。そつがないが無味無臭で、人間くささというものが感じられない。全方位で物事を考えるので面白味がなく、国や政治家に忖度する。全国知事会議では自分の言葉で話すことがほとんどないために、発信力という点で見劣りしてしまう。そのたびに県民がため息をついている。内田さんには、内堀さんのようにはなってもらいたくない。
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市長とは、市民からいわき市の舵取りを任せられた政治家でもある。政治の役割とは、市民にとって必要なことであれば、行政の常識を超えて実現させることにある。にもかかわらず最近は、「協働」や「自助」「共助」などで市民に役割を押しつけるケースが目立つ。まずは行政が限界ぎりぎりまでやるべきことをして、どうしてもだめな場合は市民に協力を呼びかけるのが筋というものだろう。
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内田さんはまず、コロナ対策でのリーダーシップが踏み絵となる。前任者のやり方を批判して当選した以上、市民が納得する対応をとらなければならない。さらに注目されるのは、汚染水問題と医師不足だ。汚染水問題については先のインタビューで「一人ひとりの声を聞き、議論を重ねていくべき。わたしは市民の側に立ってどこまでも国に主張していきたい。それが市長の役割だから」と話している。それを貫けるかどうかが、脱官僚の試金石になる。
さらに医師不足問題は、きちんとした現状認識が必要だ。公立病院は、経営至上主義の民間病院と違って不採算部門をカバーしなければならない。そうしたなかで、市内を見渡してみるとコロナ禍だというのに呼吸器科医がかなり不足している。医療センターに常勤医チームによる呼吸器科を復活させることが、市長としての大きな役割だと思う。それは急を要することなので、新市長がどんなアクションを起こすかを注目したい。市民は目を凝らしてじっと見ているはずだ。
(安竜 昌弘)