ホーム・スウィート・ホーム | 431号 |
このところ朝食の用意をしたり、あちこちの掃除をしたり、ふとした時にイングランド民謡の「ホーム・スウィート・ホーム」のメロディーを無意識に口ずさんでいる。少し前に偶然、耳にしたからだろう。日本では「楽しき我が家」名で、それに里見義訳詞の唱歌「埴生の宿」で広く知られている。
作曲はイギリスのヘンリー・ビショップ、作詞がアメリカのジョン・ハワード・ペイン。1823年にロンドンで初演されたオペラ「ミラノの乙女」のなかのアリアで、主人公が歌う望郷の歌。時の流れのなかでオペラは忘れ去られたが「ホーム・スウィート・ホーム」は、イギリス民謡として歌い継がれている。
「埴生の宿」は明治22年に出版された「中等唱歌集」に収められている。明治の初期にアメリカで音楽教育を学んだ官僚の伊沢修二は、帰国後、文部省の音楽教育機関の音楽取調掛に任命され、教材として唱歌集を作った。唱歌は初め、西洋のメロディーに日本的な歌詞がつけられ、明治14年に「小学唱歌集」、8年後に「中等唱歌集」が出版された。
埴生とは土で塗った、みすぼらしい家のこと。現代では歌詞が少しわかりにくいが、戦時中、海外の音楽が禁止されていたなかで、「埴生の宿」は途切れることなく愛唱され、いまも歌われ続けている。映画「ビルマの竪琴」でも感動的なシーンで使われている。
愛すべきわが家よ わが家が一番
わが家にまさる所なし
震災・原発事故からもうすぐ10年になる。どれだけの人がこの「ホーム・スウィート・ホーム」の歌詞を痛感していることか。わが家に帰れない人たちがたくさんいる。
(章)
そのほかの過去の記事はこちらで見られます。