
未完のオリンピック | 439号 |
昨年の7月、『未完のオリンピック』(かもがわ出版)が出版された。奈良女子大健康科学コースの主催で開催された、オリンピックをテーマにしたシンポジウムの2017年から19年の討議で生まれた論集で、11人の学者がそれぞれの視点で論じている。
この439号から連載「戸惑いと嘘」を再開した人類学者の内山田康さんの論文「復興オリンピックの変容と政治の本性」も掲載されている。内山田さんは震災復興のための開催とされていた東京オリンピックを、安倍前総理の「アンダーコントロール(状況はコントロールされている)」の言葉を起点に、汚染水対策や廃炉作業を含む原発事故への対応と並列させて政治姿勢を浮き彫りにしている。
「アンダーコントロール」は、オリンピック招致の最終プレゼンテーションでの安倍前総理のスピーチでの発言で、真実ではない。しかし翌月には、最終プレゼンの2カ月前に発覚した汚染水漏れ問題について「影響は完全にブロックされており、全体として状況はコントロールされている」とする答弁書を閣議決定した。
直面する問題を直視するのではなく、現実から関心をそらして未来へ注目を向けさせる。内山田さんは安倍前総理の政治姿勢をそう考える。オリンピックはその手段で、正当化させるために言葉遊びを重ねる。放射能で汚染された水もいつの間にか、汚染水から処理水に変化した。
昨春、WHOのパンデミック宣言後、安倍前総理は「人類が新型コロナウイルスに打ち勝つ証として、東京オリ・パラを完全な形で実現する」と言った。その後、総理はバトンタッチされたが、政治姿勢はそのまま継続されている。オリンピックまであと40日。中止や延期を求める声はやまない。
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