443号

 この夏のはなし443号 

 7月中旬、川内村に行く途中で、小川町上小川の旧戸渡分校に立ち寄った。ヤマユリの季節、校舎の周りに咲いているのを見たかった。
 校門から眺めると草木がうっそうと生い茂り、校舎は木々の間から少し見えるだけ。シンボルのメタセコイアの道に車を止め、校舎周辺を歩いてヤマユリを探した。
 原発事故前は「山の学校」と名づけられ、廃校になった分校と水源涵養林になっている国有林で、さまざま楽しい活動がされていた。しかし事故後、いわき市内でもかなり線量の高い地区となり、人々は避難して活動どころではなくなった。
 事故から3カ月後に訪ねた時は4~5μSv(一時間当たり)あった。線量計を忘れたが、いま、途中の道路沿いのモニタリングポストは0・2μSv、メタセコイアのそばは可搬式なので0・1μSvだった。
 イノシシが球根を食べてしまったのだろう。ヤマユリは見つからなかった。あきらめて車に向かうと、ガードレールそばにぽつんと咲いていた。アスファルトとガードレールが守ってくれたようだ。ヤマユリを眺めながら、やはり線量の高かった川前の志田名を思った。
 八月になって、四人の市長選立候補予定者のインタビューをした。市民が判断できるように広く深く聞いたつもりだが、掌からこぼれてしまいがちだが見過ごせない、そういう視点はなかった。将来のまちのイメージが思い浮かんだり、哲学にふれたりすることもあまりなかった。
 いわきは七月後半から、新型コロナの感染者が急増している。しかし市民はこれまで同様、感染者の数は把握できても、何が起きているのかがわからず、日常の暮らしに大きな恐怖を抱いている。状況の伝え方を含め独自の対策に乏しく、手づまり感は否めない。

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