
由起子さんの思い | 450号 |
復興と言われてしまえば本当の
心を言葉にできない空気
10日前、アリオスで開かれた「忘れない」で、歌人の三原由起子さんが思いを込めて自作を読んだ。聞いたあと、由起子さんの歌集『ふるさとは赤』の新装版と、日々の新聞の192号を読み返した。
『ふるさとは赤』は8年前に出された第1歌集。今年6月、「極私的十年メモ」などを加えて新装版が刊行された。192号は2011年2月末の新聞で、由起子さんからお土産になみえ焼きそばをもらって行きたくなり、浪江を歩いて「小さな旅」を掲載した。
由起子さんは浪江生まれ育ち。実家は新町通りで、自転車とおもちゃの複合店「のりものセンター三原」を営んでいた。店を訪ねて両親と話し、食堂でなみえ焼きそばを食べ、焼きそば太王にも会い、請戸を回って帰ってきた。震災と原発事故が起きたのは、それから半月ほどあとだった。
わが店に売られしおもちゃのショベルカー
大きくなりてわが店壊す
昨年5月、実家は解体され、更地になった。店の2階には高校時代まで過ごした由起子さんの部屋があった。でもコロナの影響で解体には立ち会えなかった。半年後、訪ねた時にはもう、店があった空気感さえなかった。
この春、母校の浪江小学校が町の聖火リレーの出発点になった。翌月、週明けに解体作業が始まることを建設会社のチラシで知った。みんながお別れできるようにと署名を集め、解体延期を求めていたが、願いはかなわなかった。
復興は「なかったこと」の連続で
拠り所なきふるさととなる
ふるさとを失いつつあるわれが今
歌わなければ誰が歌うのか
こころのまま歌を詠む由起子さん。その思いが胸に響く。わすれない、わすれてはいけない。
(章)
そのほかの過去の記事はこちらで見られます。