なぜ戦争はよくないか | 461号 |
「いい絵本があるよ」と、書店で家族に紹介された。『なぜ戦争はよくないか』(偕成社)。作者のアリス・ウォーカーは『カラー・パープル』で差別の構図とそこで強く生きていく黒人女性の姿を描き、黒人女性として初めてピューリッツアー賞を受賞した。
アリスは9.11のテロ攻撃に対してアメリカがした報復の現実を知り、衝撃を受けてこの絵本を書いた。戦争が姿をたくみに隠し、人々の平和な日々にしのびよる――その恐ろしさを伝えることが、子どもたちを守る1つの手だてになる、と思った。絵はステファーノ・ヴィタール。2015年に亡くなった詩人の長田弘さんが訳している。
長田さんは亡くなる前日、刊行されたばかりの『長田弘全詩集』(みすず書房)に託した思いを、毎日新聞のインタビューに語った。自身の詩の変わらない主題「パトリオティズム(日常愛)」にふれ「日常愛とは生活様式への愛着で、大切な日常を崩壊させた戦争や災害のあと、人は失われた日常に気づきます。平和とは日常を取り戻すこと」と話している。
『なぜ戦争はよくないか』も、ある村の穏やかな日常から始まっている。そこに戦争が忍び寄り、戦争の目でものを見て、自分のものじゃないものはすべて平気で破壊し、むしゃむしゃ村を食べつくし、あとに残るのは…。表紙を開く前から、ウクライナが思い浮かぶ。いま、この時も戦争は続いていて、まちに存在するすべてを食べている。
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