虹のはなし | 470号 |
詩人の長田弘さん(故人)の散文「むかし、遠いところに」は、まだ世界ができたてのころの、小さなおばあさんのはなしだ。おばあさんが好きなのは、世界の美しい色をたくさん集めて、世界の風景をもっと美しい色に染めることだった。
青いだけの空に朝焼けと夕焼けの赤を加えたり、それぞれの木の緑をすべて違う緑にして、季節ごとに緑も違ってくるように考えたり。そして、がらんとして寂しいように感じた雨あがりには、とっておきの9つの色を選んだ。
そのなかで、おばあさんは人生をおいしくする葡萄酒色と世界を明るくする女の子のためのピンクはとっておいた。そして残りの赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の7色を雨あがりの空に力いっぱい投げあげてできたのが、雨の弓、虹だった。
イギリスのエリザベス女王が亡くなった日、バッキンガム宮殿とウィンザー城の空に二重の虹がかかり、国葬の前日にもロンドンの空に虹が現れたという。だれもが女王からの贈りものの虹に思えた。そういえば、画家のグランマ・モーゼスが101歳を目前に最後に描いたのも「虹」というタイトルの絵だった。
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