530号

﨑山比早子さんのはなし 530号

 

 この530号の新聞で、3・11甲状腺がん子ども基金代表理事の崎山比早子さんのシンポジウムでの話の内容を紹介している。スペースの関係で、会場からの質問に対する﨑山さんの話を伝えられなかったので、ここでふれておきたい(質問は省略する)。

 400人以上の甲状腺がんが見つかっていることを知らない人が多いのは、たぶんメディアがまったく報道しないからです。甲状腺がんの多発は実際に起こっていることで、福島県の県民健康調査検討委員会でも「数十倍の多発」と言っていて、それを過剰診断のせいだと言いくるめています。
 いま発生している甲状腺がんがすべて被爆の影響とは言えず、過剰診断の人もいるかもしれませんが、すべてが過剰診断とも言えません。被曝でがんになる特定は難しいですが、全体的に被曝線量とがんの発生率が相関関係にあることからすれば、まったく否定することはできません。
 また研究者として、まるっきり事実と反することを、どうしてずっと主張できるのかが理解できません。国が一定の方向を示した時に、それに合わせていけば研究費を取れ、反すれば取れなくなります。それでも真実を述べられる人がいまの日本では少なく、事実に反したことを言うのが恥ずかしくない世の中になっています。
 罰を受けない場合にそれを規制するのは自尊心、恥や個人の感覚だと思います。いまの世の中、どんなに恥ずかしいことを言っても恥と感じない人が多すぎます。それが研究者に多いのが、残念なこと。自分を規制するのは恥の感覚じゃないかと思うのです。

 崎山さんはそう、きっぱり語った。医学博士で元放射線医学総合研究所主任研究官、東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の委員も務めた。原発事故が起きて、最初にいわきで聞いた専門家の講演は﨑山さんだった(2011年4月16日)。労働福祉会館の大会議室に大勢の人が集まり、﨑山さんの話を真剣に聞いた。
 「放射線から身を守る特効薬はありません。放射線がどう体に影響するかを知り、自分で判断し、自分で身を守るしかありません」。﨑山さんは初めに言い、外部被曝は遠くに離れれば逃げられるが、内部被ばくは逃げられないこと、政府などが言っている「ただちに健康に影響が現れる値ではない」は急性障害のことで、何十年か後に現れる晩発障害にはふれていないこと、年間7億円もかけていたSPEEDIの公表が国会議員に質問されて行われたことなどを話した。
 そのあと、会場から矢継ぎ早に多くの質問がされた。いわきは避難する状態にありますか、洗濯物は外に干せますか、マスクに意味はありますか…と。みんな必死だった。それから14年。﨑山さんの変わらぬ毅然とした姿に背筋がピンとする。    

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