531号

さくらのはなし 531号

 

 さくらが咲いている。わたしの標準木は、自宅そばの桜並木の先頭と編集室前の公園の1番近いさくらで、どちらも満開になっていて、楽しめるのは今週末ぐらいまでと思う。いつもなら、この時期は遠回りしても、さくら巡りをするのだが、今年はなにか気忙しくて、標準木のほかはしっかり眺めていない。母校の桜並木、小川の諏訪神社の枝垂れ桜、松が岡公園、勿来の関公園、いわき万本桜、新川沿い…それぞれのさくらを思い浮かべる。
 これからなら、夏井の千本桜や三春のあちこちの桜、猪苗代の観音寺川と町営磐梯山牧場など、まだまだ楽しめる場所がある。鶴ヶ城のさくらはお堀に花びらが浮かぶ花筏のころもいい。秋田の角館の開花予報を見ると、枝垂れ桜は4月半ば、桧木内川の並木は20日ごろで、ゴールデンウィークには難しいようだ。
 3月末、編集室に向かう車のなかで、テレビ朝日の「モーニングショー」を聞いていると、ソメイヨシノの開花の異変が取り上げられた。一般的に開花がこの10年、平年よりほとんど早いが「九州南部や四国南部は冬が暖かすぎて開花が徐々に遅れていて、やがて咲かなくなるのではないか」と説明された。
 冬が暖かければ開花が早まるよう思うが、さくらには冬の寒さによって木が目を覚ます「休眠打破」が必要なのに、九州南部などでは暖かいために木が眠りから覚めにくくなっているという。近い将来、海に近い鹿児島や高知ではソメイヨシノが満開にならなかったり、咲かなくなったりする可能性もある、と専門家は指摘。また数週間かけてさくら前線が北上していたが、温暖化が進むことで東北での開花が数週間早まり、南九州では1週間ほど遅くなるなど、そのうち広範囲で同時期にさくらが咲くことになるかもしれない。
 ソメイヨシノは江戸時代の後期に、染井村(現在の東京都豊島区駒込)の植木職人が、エドヒガンとオオシマザクラの2種のさくらからできたといわれている。エドヒガンのように華やかで淡いピンク色、オオシマザクラのように大きな花をつけ、成長が早くて育てやすくちょうど互いのいい性質を持った奇跡の1本なのだという。
 そのさくらがいま、温暖化の影響で少しずつ花を咲かせにくくなっている。100年後、どうなっているのか。きょうは少し風が吹いていて、窓から見えるさくらの枝がゆらゆら揺れながらピンクの花と戯れている。

                                         (章)                        

そのほかの過去の記事はこちらで見られます。