547号

田部井淳子さんのこと 547号

 

 1カ月ほど前、ポレポレシネマズいわき小名浜で、三春町出身の登山家の田部井淳子さんをモデルにした映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」を見た。田部井さんというと、1975年にエベレスト日本女子登山隊の副隊長兼登擧隊長として女性で、世界で初めての登頂がよく知られているが、1992年にはやはり女性で世界初の世界七大陸最高峰登頂を達成している。
 映画ではエベレスト登頂にスポットを当てながら、家族や友人とのかかわり、人生の選択、病や死と向き合う姿が描かれている。田部井さん役は吉永小百合さん、青年期はのんさんが演じている。どんな状況にあっても前向きで明るく、潔い田部井さんの「人生は、8合目からがおもしろい」の言葉に誘われ、映画館には70代ぐらいの夫婦の姿が目立った。
 もうずいぶん前になるが、ニッコウキスゲがきれいに咲いたころ、雄国沼で田部井さんに会ったことがある。休憩舎の近くで昼食をとっていたら、田部井さんたち20人ぐらいのグループがやって来て、お弁当を広げた。ごみを拾いながら歩いてきたようで、片手に大きなビニール袋を持っていた。
 昼食後、わたしたちは雄国山の山頂を目指し、山頂からの360度のパノラマを眺めながら深呼吸した。田部井さんたちもその後、山頂を目指し、帰り道にすれ違った。とても気さくで明るく、周りに笑い声が響いていた。
 田部井さんは1939年生まれ。山に興味を持ったのは小学4年生の時、那須の茶臼岳に登ったのがきっかけだった。大学卒業後、日本物理学会で学会誌の編集の仕事をしながら、山岳会に入って登山に熱中した。1967年に山で出会った男性と結婚。2年後、女子登擧クラブを結成し、翌年、アンナプルナⅢに登頂した。
 2000年には九州大学大学院比較社会文化研究科修士を修了、研究テーマはエベレストのごみ問題だった。山岳環境保護団体・NPO法人日本ヒマラヤン・アドベンチャー・トラストの代表も務めた。2012年にがん性腹膜炎と診断、余命3カ月と宣言された。2年後には脳への転移も見つかり、16年10月に77歳で亡くなった。生涯で76カ国の最高峰・最高地点を登頂したという。
 年に数回は海外遠征に出かけ、16年も6月にスマトラ島最高峰のクリンチ山に登った。最後の登山はその翌月、東北の高校生富士登山で、7合目までだった。東日本大震災で被災した東北の高校生のために2012年に始めたプロジェクトで、いまも長男の進也さんが引き継いで続けている。

 吉永さんは撮影前に那須の茶臼岳と、田部井さんが夫婦でリハビリのために何度も登った埼玉の日和田山に登った。監督の坂本順治さんは富士山にチャレンジし、8合目で高山病になった。エベレスト登頂シーンは立山室堂平で吹雪のなかで撮影、病気がわかって家族で登った郡山の御霊櫃峠など、さまざまな山の表情が楽しめる。なかでも、吉永さんと天海祐希さん(親友で登山の相棒役)がテントから星空を眺めるシーン(入笠高原で撮影)は印象に残る。 

 

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