391 無題(遺稿)

 

  これから懐手をして歩くのは
  やめることにしよう
  人から辞儀された時など
  失礼であるし
  それに又
  ふしだらな気分を与へるから厭だ
  寒くともはつきりと手を出して
  天上の威儀に従つて


 天平の遺稿の一つ。題はついていない。天平が亡くなったあと、梅乃は松禅院を訪れた都新聞の記者、仲村譲に手渡した。この未完未発表の作品の裏には、鉛筆による推敲の文字がびっしりと書き込まれていた。詩を書いていた中村はそれを見て胸が締め付けられそうになり、自分の甘さを痛感して筆を折ってしまった。