398 一人

一人

  見ても誰もゐない
  本を伏せる
  家を出て山を見れば
  山はやはり山


 『ひとつの道』に入っている一篇。おそらく上小川で書いたものだろう。草野心平記念文学館の片隅に、この詩を刻んだプレートを埋め込んだ詩碑がある。そこからは小川の山並みがよく見える。春に行われた除幕式には梅乃が出席し、ウグイスが歓迎のさえずりを連発した。すぐ近くに木があったが、切られていまはない。周りにツツジがあるのだが、その木は桜だったのだろうか。思い出せない。