403 冬の曇る日

冬の曇る日

  ひとつの雪虫は池のおもてへ降り
  もうひとつの雪虫は柊のかたはらを離れてゆく
  柊の葉かげには
  白い小さな花がついてゐて
  隅にかた寄り散つてゐるが
  音といひ色合といひ
  おだやかで
  何かしら見えないものが
  優しく皆を慈しみ
  物も語らず
  包むかのやう


 好きな詩の一つ。晩年の「河」に通じる空気感がある。「河」は水面に燦々と降り注ぐ陽光を感じさせるが、こちらは沈黙の風景が広がっていく。雪虫は井上靖の自伝的小説「しろばんば」と同じ虫で、東北では冬の到来を告げる風物詩になっている。