410 春の海の雨

春の海の雨

  柔らかな雨はふつて
  砂をしめらせてゆく
  向ふの松はしだいに薄らいで
  なくなつた
  今はなにの音もなく
  すくない波は
  渚までくるが
  そのまま帰らない


 「この詩のモチーフになった海岸はどこだろう」と思う。でも読めば読むほど、それを考えることが無駄な気がしてくる。松に砂浜、穏やかな波、柔らかな雨…。だれもが、自ら持っている原風景を思い浮かべる。脳裏に浮かんだのは幼いころに訪ねた、茨城県東海村の砂浜だった。