425 海

 

  すこしの音(ね)もたてずに
  さも寂しく
  さうして
  幾らかの光をこころもち帯びて
  単(ひと)つの色に
  おのづから斉(ととの)ふ
  ひそやかに知れぬほど
  しぜんにしたがつて
  常のやうに閑(しづ)かに
  姿のよい
  松は松で
  さも
  かるげに離れて
  影すらもなく

 (海)

 

『定本全詩集』に入っている。遺作「河」や「朧夜」に通じるトーンがある。穏やかで静かで、決して暗くない。そこには穏やかな孤独のようなものがある。