426 蔵のよこ

 

  小さな火おこしに火を入れて
  こち こち
  柿の木のしたで
  僕のお鍋をなほしてゐる
  こち こち
  いかけやさん
  僕と敏君としやがんで見てゐる

 (蔵のよこ)

 

「幼い日の思ひ出」と共通した情景が浮かび上がってくる。少年の日、庭の柿の木の下で鍋を直してもらっている。それを友だちと一緒にしゃがんで見ている。庭には百日紅やクスノキ、竜のひげの茂みもある。蔵は戦中から戦後にかけて杏平と暮らしたところで、いまはない。そこには、「幼い日の思ひ出」の美しい詩碑がひっそりとある。