
妻の買つてきた指ぬきは一つ三円
かはいらしい値段だ
小さな皮を
ただしなはして
かういう誰にも要るささいな品を
考へた人は
どこか田舎の枯れた年寄りかも知れない
利益なども少くて
味もなくて
普通につつましいだけ
(指ぬき)
比叡山での二人の生活が偲ばれる。梅乃は天平が亡くなったあと、「新女苑」の記者・北原節子にこの詩を渡した。北原は串田孫一の詩のグループに属していて、生前、天平が「『新女苑』に借金があった」と言っていたことから、この詩を持って北原を訪ねたのだった。その後、二人の交流が始まる。