
世界万人に真に勝つ武器は
神のやうに無手でありませう
前を正しく見て
物を持たないことでありませう
(中略)
手は垂れて何も蔵さず
慈悲と無慈悲の中ほどに立つて
身体のいづれにも力を籠めぬ
あの平かな姿であり
言葉であり行ひでありませう
(戦争に際して思ふ 一 最勝より)
天平は軍隊を経験している。応召されたときに本気で逃げることを考え、知り合いのところへ相談に行っている。何がいやかと言ったら個人の自由を束縛される団体行動であり、有無を言わさぬ暴力だった。「素手」は天平の哲学であり、思想でもあった。