日比野克彦の部屋

船上ライブで空気感を味わう

海からの視点

 私がナビゲーター役になり、オンラインで瀬戸内海の島のツアーをします。本来ならば現地に参加者を招いて海洋環境についてのワークショップや島の魅力を伝えることを行う予定でしたが、今年はオンラインにての開催になりました。ただ、なんでもかんでもオンラインでできるのでしょうか? 会議はオンラインでできる内容が多いですが、なんとなくの空気感はオンラインでは伝わりにくい部分があるような気がします。
 旅をする一番の醍醐味はやはり、現場ならではの雰囲気を体感するところにあると思います。それは一体何なのか? そこで、改めて何が一番の体感度が高いかを自己分析してみました。自分で島に行った気分になるように脳内で島ツアーをしてみたのです。その結果、大事な体感は島ではなく、島に入る時に船に乗らなくてはいけないという移動手段、つまり海の上を島に向かって船に乗っているその時間が貴重な時間になっていたような…。そこで、オンラインツアーは海の上から始めることにしました。船上からのライブ中継です。
 ツアータイトルは「海からの視点」。私が瀬戸内国際芸術祭でよく通っている粟島という島がその舞台です。近年は橋でつながる島も多くなってきましたが、瀬戸内の島々の多くは連絡船が島人の足になっています。島の人の思想や哲学は、きっと船で島に出入りすることによって形成されているのではないでしょうか。船に揺られて海からの視点を持って島に入り、船に乗って島を後にしながら海からの視点を確認する。その繰り返しがあるからこそ島人の心が生まれてきたのだと思います。
 昔、インドネシアの島の森の中の小さな村を訪ねた時、その村に行くには道がなく、川を船で行き来するのが手段でした。伝統的な文化が継承されているその村に比べて、手前の村は道が開通したことによって独自の文化は無くなっていきました。
 地球上には大きな大陸がありますが、よくよく考えれば、それ自体も海に浮かぶ大きな島です。陸上第一優先に走りすぎてきたこれまでの時代から、海からの視点を持って行かなくてはいけない時代になってきています。オンラインという海原から忘れてはいけない視点にアクセスに挑戦したいと思っています。

(アーティスト)

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