日比野克彦の部屋

 

肥後朝顔のこと

 

 明後日朝顔全国会議が熊本で行われました。この催しは毎年6月、明後日朝顔プロジェクトに正式参加している地域が持ち回りで開催しているのですが、ことしは8月です。それには理由があります。熊本には肥後朝顔というちょっと変わった朝顔があります。「その朝顔を全国のみんなに見せたい!」「咲いているところを育成の苦労話と共に見て欲しい!」という目的があったからです。
 江戸時代から伝わる伝統的な育成手法によって開発された「植物と人間との対話の物語」が肥後朝顔にはあります。私たちの明後日朝顔も今年で22年目になり、採れた種を代々大切に受け繋いでいるのですが、肥後朝顔の種は200年以上だそうです。その種は門外不出なので、貴重さが際立っています。種をテーマとして展開している明後日朝顔プロジェクトにとってはとても関心が高い先輩の種プロジェクトと言えます。
 8月4日の朝に全国会議に参加した30名あまりの参加者は熊本城の中の広場に集まり、肥後朝顔5鉢を拝見しました。肥後朝顔になるには規定があります。その規定通りに咲いた鉢が、この日は5鉢でした。肥後朝顔を栽培しているチームが今年育てたのが1000鉢。その中の5鉢が肥後朝顔としての規定をクリアし、私たちの前にお披露目されたわけです。
 朝顔は、毎日早朝に咲いて、日が高くなるとしぼみはじめ、夕方に花は閉じます。肥後朝顔は1鉢に1輪の花なので、1000の鉢を順番に毎日展示できるように、コントロールして、ある一定の数が夏の期間毎日展示できるように育てています。肥料をやるタイミング、水をやるタイミング、やらないタイミング、肥料の濃さを変えていく塩梅、などは事細かく、江戸時代から伝わった手引きをもとに行われています。
 肥後朝顔の世話をしているスタッフは市の職員で、長い人は15年目、若い人は2年目。引き継いで、引き継いで現在に至っています。今年の肥後朝顔の種を収穫するのは間もなくですが、一年1年の繰り返しでしか、伝えられないのです。急ぐこともできないし、休むこともできません。日はまた登り、日はまた沈む…。その繰り返しです。肥後朝顔の話を聞きながら、その1粒の種が持っている力を改めて感じました。

                                     (アーティスト)


過去の記事はこちらで閲覧できます。