206:緊急事態宣言

思いを込め聖火をリレーする

緊急事態宣言

 緊急事態宣言が出た4月7日にこの原稿を書いている。テレビには小池都知事が生放送で「感染症を抑え込むために家にいましょう」と呼びかけている。早急に危機感を共有するためには公共の放送メディアを使う。このことを何も知らなければ、世の中はうららかな春でしかない。
 日々状況が変わるこの感染症への対応は朝令暮改でめまぐるしい。日々の新聞は月に2回の紙メディアだから、緊急のことを即座に伝えるには適してはいない。しかしその時を振り返り、変化を感じるには敢えて適していると、ここで言ってみよう。これが発行されるころ、この2週間で日本が激変しているのか、そうでないのか? これほど2週間先の私たちの生活の様子が読めないことがこれまでにあっただろうか?
 東京藝大もこの宣言を受けて「大学閉鎖」を今日の会議で決めた、開校以来の出来事である。教員も事務方も4週間の間に在宅で仕事ができるようにネットワーク環境の安全性と確認に追われている。学生たちにも特に新入生、留学生たちへの対応には細やかな気を配らなくてはならない。そして講義系の座学は遠隔授業もできるが、実技をどうするのか? などなど前期の授業が行えない状況をも想定しながら準備を進めている。 
 ひと月前の3月7日に、私はこの欄でこう書いている。 
 「日本橋三越で個展を開催します。3月18日から30日。みなさん来てください」
 この時は、オリンピックも聖火ランナーも予定通 りあるものだと思っていた。この三越の展覧会はトークショウの中止、開店時間縮小はしたもののなんとか開催することができた。しかしデパートは、今週末あたりからひと月近く閉店することになる。私は今日の夕方、今年の10月に横浜で行う舞台の美術打ち合わせを、スタッフ5人で集まって行った。終わってから帰り際に「これでしばらくは会って打ち合わせはできそうにないね。10月に舞台ができることを祈って!」と不要不急の判断精度がより一層明日から上がる世間の空気を、感じていた。 
 明日の予定で会うことになっていた人からメールが届いた。「熱が下がらないので明日保健所にいってきます。明日の打ち合わせはリスケさせてください」と・・・。もうすぐそこまで何者かが迫っているのは確かだ。 

※リスケ リスケジュールの略で、「スケジュールを組み直す」といった意味で使われている。

(アーティスト)