227:マチスとヒビノ

 

マチスとヒビノ

 11月19日と12月25、26日に、姫路市立美術館の展示室内でマチスの作品を見ながら公開制作を行った。フォービズム(野獣派)と呼ばれたマチスは、アフリカのプリミティブアート、洞窟壁画にも関心を抱いていた。12月25日にマチス研究者の大久保恭子さんの講演もあり、改めてその話を聞いた。
 私も古代壁画などには関心があり、現地に行ったりしている。10年ほど前にエジプトの岩窟壁画を見に行った時、同行していただいたのが美術史家で先史岩面画研究者の小川勝さんである。この御二方と今回の公開制作を企画した美術館の副館長、学芸課長の不動美里さんは、大阪大学名誉教授の美術学者木村重信さんの門下生であったという。バラバラにお会いした3人が1人の先生で繋がった。木村さんとはお会いできなかったが、会っていればきっと話が盛り上がったと思う。
 アーティストの評価、絵の批評をする人と絵を描く人、つまり制作する人は別々の領域である、と思っている人も多いだろうし、私もそう思っていた。公開制作が終わり、大久保さんと不動さんから「アーティストの魅力を発見するのはアーティストの場合がある」という話を聞いた。なるほど、言われてみればそれは納得できる。私がマチスを好きな理由は彼の表現者としての存在にある。当然会ったことはないし、その姿は写真でしか見たことない。けれども、アトリエでの筆を振る舞っている姿には憧れる。実物の絵を見た時も、その絵の具のタッチから、マチスが握っている筆を想像し、その腕をコントロールしている身体を想像し、その身体を操っているマチスの心境を想像する。きっと彼の頭の中? 心の中? 気持ちの中? には、原始的な先史的な人の力が存在している。そこに憧れる。マチスの切り絵を視野に入れながら私は、洞窟と壁画を段ボールで制作した。白い壁画と黒い壁画を2面制作し、2つを洞窟で繋げた。
 最終日の12月26日の公開制作に立ち会った人たちと共に、洞窟をくぐった。それは、黒から白へ、闇から昼間へ、紀元前から紀元後へ、今日から明日へ、とのイメージを共有体験し、マチスを通しての日比野を通しての作品を通しての参加者を通しての時空間を超越した世界が出現した瞬間であった。

(アーティスト)