231:「TANeFUNe」のはなし

 

「TANeFUNe」のはなし

 「種は船TARAJAMBIOアートプロジェクト」という作品タイトルで瀬戸内国際芸術祭2022年に参加しています。この作品の成り立ちをご紹介します。
 始まりは2003年、新潟県十日町市を中心にして行われている大地の芸術祭での作品「明後日新聞社文化事業部」の活動の一環で行った、朝顔の育成を通しての地域住民との交流でした。初夏になったら朝顔の種を蒔いて、苗にして、夏には花が咲き、秋には種を収穫します。その種が2005年には茨城県水戸市、2007年には石川県金沢市などに運ばれて「明後日朝顔」と呼ばれるようになり、「種を通して人と人が交流し、地域と地域がつながっていく」ことが実践されていきました。
 その活動を通して「種の中には地域の人と共に活動した1年の記憶が積み込まれていて、また次の土地へ運ばれていく」「種は記憶の乗り物のようだ」というイメージを抱くようになりました。そして朝顔のタネをよくみてみると船の形のように見えてきて。「種は船」という言葉が生まれました。
 「じゃあ朝顔のたねの形をした船を作って、実際に乗ってみよう」ということになり、2012年に実際に航海可能な「TANeFUNe」が京都府舞鶴で造船され、日本海を新潟まで33の港を経由し、地域住民と交流しながら航海していきました。その後も「TANeFUNe」は海から陸を見つめる視点で自分達の生活を考える思考の場として、東日本大震災の後には塩釜を拠点として浦戸諸島などでも活動してきました。
 「TARAJAMBIOアートプロジェクト」の「TARA」とはフランスを母港とする定員20名ほどの科学海洋探査船の船の名前です。これまでに北極、南極、太平洋、地中海などで温暖化、プランクトン、珊瑚礁、マイクロプラスチックなど12の探査プロジェクトを行ってきています。TARAのプロジェクトの特徴は必ずアーティストが1名調査に参加するという点です。私もTARAの活動に参加しています。科学では伝えきれない部分をアートで伝えていく、というコンセプトを持っている船なのです。
 「JAMBIO」とはJAPAN ASSOCIATION MARINE BIOLOGYという組織で、筑波大学の臨海海洋実験センターが中心となり、全国23の国立大学の海洋系のセンターが参加しています。昨年からTARAJAMBIOアートプロジェクトという活動が始まり、TARAが世界の海で行っているアートと科学の2つの視点から、海洋環境調査を日本の海でも行うようになりました。そして瀬戸内海での海洋調査に「TANeFUNe」が参加することになり、「種は船TARAJAMBIOアートプロジェクト」という活動に至るというわけです。
 5月18日までは小豆島、8月には豊島、9月末からは粟島と瀬戸内海の島々を巡りながらアート活動と海洋調査を同時に行っていきます。是非一度瀬戸内海へお越しください。

(アーティスト)