

あるひととき |
「わからないことをわからないままで引き受けることができるのがアートの特徴である」という言い回しを、最近自分の中でよく使っている。なので、今回のこの文章もなるべく何を言っているのか、何がいいたいのか?わからないようにしてみたいと思います。ただし何を伝えたいかということは、はっきりしていて「なるべく何が言いたいのかわらないことを」伝えたいということです。
今、私は地下鉄にのってパソコンを膝の上に置いてワードで文字を打っています。午後5時41分の東京の銀座線は、通勤客の帰りの時間帯になってきて、目の前には吊り革につかまってスマホをやっているストレッチの効く生地のグレーのスーツの人が立っています。「次は赤坂見附です」と録音された女性の車内アナウンスが流れました。車内の窓は換気のために半分開いていて、割と強めの風が流れてきています。最近車内で話し声が少しずつ聞こえるようになってきた気がします。女子の二人の会話がそんなに気になることもなく、普通に聞けている自分に少し驚きました。
「青山一丁目です」と駅と駅の間隔が短いので、すぐにアナウンスが流れます。時々今着いたのか?次の駅なのか迷う時があります。茅場町から東西線に乗って日本橋で銀座線に乗り換えました。こんな時はスマホとかしていると今どっちの路線に乗っていたかをふとわからなくなる時もあります。茅場町にあるKAO株式会社に長谷部社長と大学の広報誌の対談で伺っていました。その中で「わからないことをわからないまま引き受けるのがアートの特徴」という話をしたのでした。
最近、藝大生と花王の社員が「キレイ」をキーワードにアートシンキングを一緒にしたりしているのです。そんな帰り道での、この原稿タイムです。日々の出来事の何気ないことを徒然に書き綴ってきている、この日々の新聞での私のエッセイ?も、今日はこんな感じです。
まもなく表参道です。きっとこのテキストを十年後に読んだ時に、2022年6月のあるひとときの記録には、残りにくい日常を感じ取ることができるんじゃないかな、とも思ったりすると、何が言いたいのかわからないことではなくなってしまうので、あまりそこは意識しないようにして・・・。
(アーティスト)