234:ある島にて

 

瀬戸内海の豊かなる島にて

ある島にて

 島に上陸すると男4人はそれぞれが思いのままに海岸線を歩き始めた。船を砂浜に突き刺した場所の正面には険しい断崖があり、歩む方角としては、右に行くか左に行くか選択は2つしかない。左の浜辺の先には黒い石が溜まっているところがある。船の上からでも、その黒色は目立っていた。「なんだあの黒い色のものは? 行ってみるか」となり、船の舵をこの島に向け、上陸することになった。
 船の舳先から2時間ぶりに陸地に上がると、3人の男は左に向かった。それを見て、もう1人は砂浜に目を凝らしながら右に行った。3人のうちの1人が暑さしのぎに腰まで海に浸かりながら海水の中を歩いて行った。黒い石は拳くらいの大きさで、一面に広がっていて、波に洗われるとさらに黒くなっていた。
 海の中に潜ってみると。当然黒い石は海底にも繋がっている。黒い石を追いかけて行った先には、大きな岩場が現れた。そこには貝類がびっしりと張り付いている。「食べられるのかな」「美味いのかな」「きっと美味いだろうな」と一通りのことを想像しながら。船に積んであった水メガネを使って水中の世界を観察していた。
 海の中に入ると自動的に陸上の世界のことを一瞬忘れる。2、3度忘れた後に、右の方に行った男の行方が気になり、目をやってみると、かなり遠くの方にいるのが見えた。「何があるのかな」と思いつつも、男3人の左組は皆、海に潜り続けていた。貝の生息の状態や、ひとつひとつの形がなんとなく理解できたころ、完璧に陸上のことを忘れたころ、右の男の声がした。海面から顔を上げると「でかいテントが浜に打ち上げられている」と左の3人に伝えた。4人は右に向かい、現場にたどり着くと、テントの周りの砂を掘り始めた。
 どこまで埋まっているのか、どれくらいのサイズなのか、掘っても掘っても全体像が見えてこない。男4人が10分掘ってもまだまだ見えない。20分、30分…。少しずつ見えてはきたが、後どれくらい掘ればいいのかが検討がつかない。指先がヒリヒリ痛くなってきた。潮が満ちてくる時間帯なのか、堀った穴に、波がまた砂を運んでくる。
 諦めようかとなんども4人でため息をつくが、ここまでやったのが無駄になるのはなんとも情けない、後少し掘れば、一気にガサッ!と掘り出せるのかもしれない、という思いの連続で、その後も掘り続けた。60分経過し、待ちに待った瞬間が訪れる。テント救出!である。カーキー色のテントには、長い時間に波の力で砂や小石や岩に擦られてできた模様が付いている。その紋様は美しかった。
 船に積み込み目的地につき、竹で小屋を立てて、屋根にそのテントをはって、小屋の中から天井を見上げると、まるで海中から水面を見上げている時間のようになった。陸上でいながら陸上のことを忘れる場所がそこにはあった。

(アーティスト)