

引っ越し |
春は引越しの季節である。私の事務所兼アトリエ(渋谷)が、1985年から36年間の痕跡と共に引っ越しをしたのは、2021年の夏だった。マンションの建て替えに伴う、余儀ない引越しだった。その引っ越した先が、この春に再び引越しをすることになった。毎年引っ越ししている感じである。
今回の引っ越しは、アートプロジェクトに特化したオフィスとして2010年から13年間使っていた場所。オフィスが入っている建屋全体は「アーツ千代田3331」という名称で、多くのアート関連のオフィス、ギャラリーなどが入居していた。かつては千代田区立の中学校だった。
渋谷にあったアトリエ兼事務所は「ヒビノスペシャル」と呼ばれていて、1980年代からその場所で多くの作品を生み出してきたアトリエである。作品周辺の資料も歴代ヒビノスペシャルのアシスタントがアーカイブしてきたものが、そこにあった。
この「ヒビノスペシャル」の引っ越しをきっかけに周辺資料のアーカイブのあり方を考えるプロジェクト「日比野克彦を保存する」が始まった。「アーツ千代田3331」にある私のオフィスは「日々の明々後日(ヒビノシアサッテ)」と名付けて活動をしていた。「日々の明々後日」には「ヒビノスペシャル」にあった資料のほぼ全てを移動した(1部は自邸)。「ヒビノスペシャル」のアシスタントも「日々の明々後日」で仕事をするようになり、渋谷のアトリエはバックヤード的な役割に変化して行った。
また、私の大学での業務内容の変容に伴って、「ヒビノスペシャル」のアシスタント制度も一旦終了し、多くの資料は日比野研究室の研究資料として「東京藝術大学未来創造継承センター」の活動の一部が受け持つようになった。そして、アーツ千代田3331の入っている旧中学校の建屋の改装に伴い「日々の明々後日」が引っ越しをすることになった。
私もここまでこのテキストを書きながら、物理的な空間の移動と同時に、私の活動を支える周辺の組織や空間が変化してきていることを改めて認識しました。
現在、「ヒビノスペシャル」は住所としては私の実家がある岐阜にあります。空間としてはありません。渋谷のマンションが建て替わったら、そこに再出現する予定(2025年秋)です。
「日々の明々後日」は、住所も空間も今回の引っ越しを機に消滅することになります。アーツ千代田に入居するのをきっかけに始めたサイト・スペシフィックなプロジェクトだった、といえるものでした。「日々の明々後日」で出会えた、学生、地域住民、アーツ千代田のみなさん、13年間ありがとうございました。
(アーティスト)