入学式 |
2023年4月5日、東京芸術大学の入学式が行われました。学長として2回目の入学式です。今回の入学式の目標は新入生と共に作り上げることを目指しました。入り口で新入生にB 2サイズ程の紙を1人1枚ずつ持っていってもらいました。973名の新入生が紙を持って会場の席に入学式を始まるのを待っています。
芸大の入学式の会場は奏楽堂という音楽ホールで行います。ほぼ1000名が入るこの会場に3年ぶりに新入生が一堂に集うことができました。
芸大の入学式の特徴は、奏楽があることです。毎年音楽学部の専攻が持ち回りで担当します。昨年は打楽器専攻でした。今年は古楽専攻が担当となり、奏楽堂のシンボルであるパイプオルガンの演奏が新入生を歓迎することになりました。
式開始時間である11時の30分前からパイプオルガンの演奏が響き渡り、普段の日常生活とは一味違った空気感に包まれる中で入学式が始まります。私がその空気感の中で登場し、新入生たちに呼びかけました。
「ご入学おめでとうございます。今日は共に作るワークショップ入学式です。会場入口でもらった赤色、白色、桜色の紙を使ってこの奏楽堂の空間をお祝いの場にしていきたいと思います。皆さん、舞台から客席に向かって張ってある頭上の2本のロープが見えますか? このロープに紙を飾りつけていきたいと思います。ロープの吊元の両端には滑車が付いています。これから舞台上で紙を取り付け、客席の方にロープを送って行くと、飾りが客席の頭上に現れていく、という仕掛けです。私がみんなにあるテーマを出し、それを聞いて紙に少し手を加えていきます。まず、その紙をみんな顔の前にあげて下さい。前が見えなくなります。その紙の向こう、見えない向こうにどんな世界を自分は持っているのか? まだ見えない自分の未来! こんな未来を見てみたい! こんな夢を形にしていきたい! その夢の力で、紙に穴に開けてください! 夢の力で見えない向こうを見る穴を開けてください! 紙を破る道具はありません。自分の手で破ってください!」
そう指示を出すと、973名の新入生たちは思い思いに紙に穴を開けて行きました。その作業が終わった頃に、「では皆さん、その穴から紙の向こうを覗いてみましょう! さっきまで見えなかった世界が見えたような気になります。今日初めて居合わせた隣の人にも自分の開けた窓から挨拶をしてみましょう! はい、ではこれから皆さんが作ってくれた紙をステージ上に集めます。一番後ろの席の人から順ぐりに前の席の人にどんどん渡して行ってください」と言い、一番最前列に集まった紙をその席の新入生の人たちに舞台に持って来てもらい、そしてパイプオルガンの奏楽の中で取り付けて行きました。
約7分半の演奏中で973枚の夢の形が、奏楽堂の空間に見事飾られました。その時に演奏された曲は、アルボペルト作曲「来る日も来る日も」。1日1日の小さな繰り返しが自分たちの夢を現実に近づけてくれます。
きっとこれから大変な時も楽しい時もありますが、今日共にこのワークショップ入学式を体験した仲間がいる事は事実です。みんなが切り抜いた夢の形は新入生の手元に残っています。今日のことを思い出すきっかけになることでしょう。東京芸術大学の共に作るワークショップ入学式。学生教員事務方のスタッフとともに共創を共有して大学の、そしてアートの素晴らしさを、みんなと一緒に構築し発信していきたいと思います。
(アーティスト)